キーンと響く俺の怒声は、もしかしたら隣の豹牙先輩たちにも聞こえたかもしれないが、そんなことはどうでもいい。目の前で再び目を丸くしている司さんは「おかゆ……?」と呟いて、床に転がるそれを見た。
「こちとらお粥のこと謝れっつってんのに、グチグチ子供染みた言い訳並べてアンタはなにがしたいんですか? あぁいえ、別に言わなくてもいいです。言う気ないんですよね? じゃあ分かったらまず、俺に謝れ」
「……ご……めん、なさい」
呆然としたまま謝罪の言葉を口にした司さんは、やっぱりちょっとだけ間抜けに見える。俺はそんな彼にため息をもらし、後頭部を掻いた。
「あのね、司さん。俺は馬鹿だし子供だから、司さんがなにをしてるかなんて想像もつかないです。でも警察である新山さんたちや、あの動画で俺が麻薬を渡した男の爪を剥いでた巴さん、そんな人たちが寄って集って企んでいることは、きっとよろしくないことだけは分かるんです。
そのうえ司さんはわざと豹牙先輩を遠ざけてるし、これはもう絶対よろしくないでしょう?」
「……」
「いえ、答えなくてもいいんです。ただね、これだけは言わせてください」
まるで親とはぐれた子供のような、不安いっぱいの色が浮かぶ司さんの瞳を覗き込む。いつもの飄々とした彼をここまで乱すことができるのは、豹牙先輩だけなんだろうな。
「俺は騒ぎ立てる幼稚さしかありませんし、暴力なんて奮えません。でも俺にだって武器はあるんです。だから、まずはちゃんと食べてください。次はちゃんと、俺が作ったお粥を食べてください。それまではインスタントじゃなくて、ちゃんとしたご飯を食べてください。いいですね?」
「…………はい」
「分かってくれたならそれでいいんです。じゃ、俺は戻りますね。勝手に行動してすみませんでした」
軽く頭を下げ、呆然とする司さんと巴さんの横を通り抜ける。なんだか無性に寂しくなったのは、なんでだろうな。
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