「……ありがと、志狼」
「んーん。俺ね、今ちょっと疾しい気持ちもあるから、素直にお礼なんて言わないで。もっとつけ込みたくなる」
「? ……どういう?」
久しぶりに会う志狼でさえ一目で分かるほど、俺はよほど無理をしていたのだろうか。掛けられた言葉に素直にお礼を述べた俺に、なぜか罰の悪そうな顔で苦笑する志狼に首を傾げると、なんでもないよとまた、頭を撫でられた。
「そういえば、玲央は?」
「え?」
「え? って、小虎のお兄ちゃん。あいつにも挨拶しとこうと思ったんだけど」
「あ、いやー、うん……うん、」
「……」
歯切れの悪い返事に、志狼の目がすっと細まる。
「もしかして今、喧嘩中?」
「やっ、それは違う」
「へぇ、じゃあなに?」
「……ん、俺も、正直分かんない……かな?」
なにそれ。隣で呟く志狼の声が、意外にも冷たくて驚く。しかし次の瞬間、なぜか俺は志狼に抱きしめられていた。なぜ。
「しろ……?」
「……くっそ、んな顔させるとか……勝ち目ねぇだろ……」
「あの、志狼?」
「そこぉ!」
ポツリと呟くその声は、生憎と雄樹の叫び声でよく聞こえなかった。豹牙先輩の手により三つ編みが施された可愛いアホな雄樹が、そんな俺と志狼をベリッと引きはがす。
「浮気は許しません!」
「おいこら雄樹、それ俺の台詞だろうが」
どこをどう取って浮気と断定したのかよく分からない雄樹に、呆れ顔の仁さんが突っ込みを入れる。当然とばかりに俺たちは笑った。
それからは皆で他愛もない話で盛り上がり、結局酒盛りが終わったのは朝の四時だった。酒を飲んだ豹牙先輩に代わり、わざわざ迎えに来てくれた新山さんと仙堂さんに雄樹と志狼は不信感をあらわにしていたが、仁さんが早々と見切りをつけて俺を車に押しこんだ。
「小虎、お前も大変だとは思うけどよ、たまにはあいつらのことも頼ってやれ」
車に押しこんだ仁さんがそう言って、いつもより強めに俺の頭を撫でる。しかし後ろで騒ぐ雄樹にすぐ背を向けた彼になにか言う前に、新山さんは車を発進させたのだった。
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