「さて小虎くん、話をしようか」
俺に恐怖を植え付けた司さんだが、仙堂さんに人数分の飲み物を用意させたあと、一人ソファーに座って微笑んでくる。ちなみに司さん以外は全員床に正座である。
「にしても小虎くん、落ち着いてるねぇ? それともあぁ、俺が怖い?」
「え? や、そんな、ことは……」
「あはは、いいよいいよ。本当に君は分かりやすいなぁ」
あえて分かり切った質問をする司さんの性根はなんとなく理解していたつもりだが、やはりこの人は正直食えたものではない。ちらりと豹牙先輩がいるだろう部屋の扉を見るが、すぐに視線を戻した。
「簡潔に言うね。事が済むまで君はここで暮らしなさい。学校やカシストへ行くのも必ず豹牙をつけること。一人で行動することだけは絶対にしないで。いいね?」
「……え、」
いや、いいね? と言われましても。
「いい子にしてれば傷一つ付けず、玲央を返してあげる」
「は?」
傷一つ付けず……?
不吉なことを言いのけた司さんに、もしかすると俺の目は鋭く睨みをきかせていたかもしれないが、ここで豹牙先輩の二の舞になるほど、俺もお人好しではない。
「……司さん」
「んー?」
「俺だから言いますが、兄弟に殴られるのって、理由があっても辛いもんですよ。だからあとでちゃあんと、豹牙先輩に謝ってくださいね」
「…………」
「あ、俺の荷物なんですけど。取りに行ってもいいんですか?」
「……や、それはもう運び込んだよ。必要最低限のものだけど」
「そうですか、じゃあ足りない時は新山さんにでも言えばいいですね?」
「うん、そうして」
小虎くん? なんで俺にだけちょっと酷いの? なんて隣で言ってくる新山さんをスルーしながら、それでも俺は少し傷ついた表情を見せる司さんからは目を離さなかった。
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