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「――と、これが前置きだ」


パンッと軽く手を合わせ、男が無邪気に笑う。
その気持ち悪さについ顔をしかめてしまう幼さを見透かすように、男はさらに目を細めた。


「あまり小難しく語る気はなかったんだけどね。つい君の反応が楽しくて遊んじゃったよ。
さぁ肩の力を抜いて。これからは順を追って真面目に話そう」


今の今まで話していたそれは不真面目だったというのか?
不真面目と片づけるには聞き逃せないことばかりだったというのに。いけ好かない態度に、膝の上で握る自分の拳に力がこもる。


「まず、今回君をここに連れてきたのは君がある事件の重要参考人であるからだ」

「重要……?」

「実は我々、というよりもさっき壁を馬鹿みたいに叩いたアホな奴らだね、そいつらが追っているのがまさに麻薬組織の一人、ノアなんだよ」


先ほども十分に驚いたが、ノアさんが麻薬組織の一人というのはどういうことだ?
いや、それよりもこれで分かったことがある。この人の言うとおり、本当にノアさんが麻薬組織の一人ならば、俺の仮説通り今回は麻薬が絡んでいると見て間違いない。

となれば、玲央はそれに巻き込まれている?
……待て、さっきこの人は玲央がノアさんを釣っちゃったとか言ってなかったか?
多分ノアさんが玲央のことを気に入ったってことを暗喩してるんだろうけど……どちらにせよ、玲央が危ない。


「重要参考人というのはどういうことですか、玲央は、兄は無事ですか」

「……おやおや、自分のことよりお兄さんの心配かい? 健気だねぇ」

「茶化さないでください。これは任意同行ですよね? 人の過去を本人のいないところで吹聴したいだけなら俺は帰ります」

「あはは、痛いところをつくなぁ。でもダメだよ、帰せない。君の身柄は当分我々警察が預かります」


身柄を預かる?
その単語に熱くなった頭が急激に冷えていく。




 


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