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玲央が俺に謝罪したあの日、俺と二人でカードゲーム、ブラックマリアを行った司さんが教えてくれた過去の話に出てくるのは、捕まった自分に協力を求めた警察の人間だ。
そしてその男が恐らく今、俺の目の前にいる。男の名は――新山、というらしい。

甘いコーヒーを机の端に置きやった新山さんは、肘をついて俺に微笑んだ。


「その日は連日降り注ぐ雨がカラッと晴れて、ちょうど振替休日ってこともあって街にはたくさんの人がいた」

「え?」

「そのせいかな、住宅街から人の気配は薄まり、不審者はその欲求を抑えつけることができなくなったんだろうね」


……突然はじまったその話に口を閉じる。俺の態度に満足げに微笑む男は話の先を語り出した。


「とある一家の話だ。せっかくの振替休日なのに、夫は急用ができたと言って家を出てしまった。出かける約束を反故にされた弟は兄に遊びに行くようせがんだそうだ。妻はそんな子供たちに気を付けてと見送った。慎ましく、どこにでもあるような温かな家庭だった。そうであったはずだった」


すっと人差し指を俺に向け、笑う男から表情が消える。


「けれどもあっけなく幸せな家庭は壊される。それがたった一人、若い男の手によって」


新山さんの言う若い男に思わず息を呑む。
無表情のまま、自分の手を握りしめた目の前の男は視線を下に向けた。


「こんな理不尽が許されるんだろうか? たとえ未成年であれ麻薬に溺れ、傷害事件を起こしたどこかの誰かは他人の家庭を壊す権利などないはずなのに、どうしてその家族は不幸にならなければいけなかったのか。
――なのに蓋を開けてみれば不幸の芽はどこにでもあった。
その日、出かけた夫は若い女と不義を働いていたんだよ。もしも夫が家族との約束を守り、皆で出かけていたのならこの家族はまだその時、不幸になるはずはなかった」


淡々と語られる内容の残酷さに、いや、目の前の男の残酷さに、俺は眩暈を覚えた。




 


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