しかし無情にも提携業務は進み、表面上はなにも変わらないことも裏で金が動くようなこととなった。
それは別にいい。双方メリットがあって競い合えるなんて、いいことだと思う。
ただ、問題は。
デスリカでカシストの料理が注文されたとき、運んでいくのがカシストだってことである。
ブラックマリア嫌いの雄樹がデリバリー役を買うわけもなく、仁さんはマスターなので店にいなければいけない。
俺にもお粥という重大な仕事があるわけだが、雄樹が駄々を捏ねているのであった。
「雄樹が行けよ、お前普通にデスリカ行ってたじゃん」
「あのときはトラちゃんがいたからじゃん。なんで俺が上の為にデリバリーしなきゃなんねーの」
「はぁ? じゃあお前、俺の代わりにお粥作れんのか?」
「チョコレート粥くらいなら作れますー!」
「誰が食うかあんなもんっ!」
仕事も早々に、デリバリー役を決めるための作戦会議がカシストにて行われていた。
作戦会議、などとは言っても、その中身はデリバリー役を押し付けあう俺と雄樹の口喧嘩である。
「はー……おいお前ら、交代でやりゃいいだろ」
「嫌です」
「おいおいトラぁ、なんでそんなに嫌なんだよ。お粥作りあるけどよ、タイマーセットしたら時間あるだろ、お前は」
「……でも嫌です」
「じゃあ理由を言え、理由を」
見かねた仁さんの言葉に拳を握る。だって、言えるわけがない。
デスリカに兄がいて、見つかるのが嫌。なんて。
雄樹は俺が以前暴力を受けていたことは知っているが、それが誰かも知らないし、今現在つづいていることも知らない。
ただ俺と兄の仲が良好ではない、ということしか知らないのだ。
だから、デスリカに行っても平気だとか、そう思っているのだろう。
「……」
「理由がねぇなら交代制だ、いいな?」
黙ることしかできない俺に、仁さんの無情な決断が下された。
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