「小虎」
そんな俺と仁さんを黙って見ていた隆二さんに呼ばれそちらを見る。
相も変わらず美しいその顔が、そこにはあった。
「ね、お粥ってさ、デリバリーできねぇの?」
「で、でりばりー……?」
「そ。上でも食べたいからさ」
考えたこともなかったことを問われ、ついていけずに固まる。
そもそも考えるはずもないだろ、お粥のデリバリーとか。
なんと言えばいいのか悩んでいると、いつぞやのように俺の襟元を掴んだ仁さんに引き寄せられた。
「行け」
「こわっ! てか待ってくださいよ仁さん。デリバリーって上の人たちに怒られるでしょ?」
「だからよ、上のクラブと提携すんだよ」
「はぁ?」
なに言ってんだこの人。つーか苦しいんですけど。
「あ、それ賛成。デスリカって食べ物不味いし」
「ほら見ろ。あそこは入場料と酒代で稼いでんだからいけるだろ」
マイペースに賛成してきた隆二さんの一声により、悪人面をさらす仁さんはさらに調子に乗った。
待て待て待て、少し落ち着いてくれ。
「いやいや、確かに人で溢れてるデスリカで仁さんの料理を出せば売れるかもしれないですけど、それじゃデスリカにメリットないでしょ?」
いたって普通な意見を述べれば、仁さんはニヒルな笑みを浮かべる。
「いいか、トラ。あそこは酒、音楽、ナンパで売れてんだよ。つまり、だ。ナンパ目的の男が女を捕まえて、あと一押しで落とせそうならどうする?」
「……雰囲気のある場所に行く?」
「そう、加えて言うなら静かで照明も少ない、そんな店を探すだろ?」
「……つまり、ここだと?」
俺が問いかけた瞬間、人でも殺したことのあるような極悪面で、仁さんは頷いた。
それから仁さんの行動は素早かった。まるで殴り込みにでも行きそうな勢いでデスリカのオーナーに会いに行くなり、まさかの提携という土産を持って帰ってきたのだ。
いや、無理だろ。どう考えても無理だろ。だってフリルエプロンつけたウェイターがいるんだぞ?
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