「俺のこと、今は本当のお兄ちゃんだって思えば大丈夫だからな」
移動中に隆二さんが耳打ちする。
その言葉に少しだけ体が軽くなり、俺は静かに頷いた。
隆二さんが手を離さずにカメラの前に立つ。
ここにきてやっとパニックに陥った頭で隆二さんの手を強く握ると、彼は優しく微笑みながら俺の腰に手を添えた。
「コト、俺に腕をからめて?」
少し密着した隆二さんが呟く。藁にもすがる思いで腕をからめると、あまりの変な動きに隆二さんが笑った。
パシャッ。シャッターの音がして、思わず振り返りそうになる俺の首を、隆二さんが優しく止める。
はたから見ると女性の髪に指を通す男性だが、その動きを自然にできる隆二さんがすごい。さすがモデルなだけあると感心してしまい、思わず笑った。
「うん、やっぱりコトは笑ってるほうが可愛いな」
そう言って、いつもデスリカで見せてくれるあの笑顔を俺に向ける。
……やっぱり、隆二さんはお兄ちゃんって感じがするなぁ。なんか、安心する。
それから隆二さんに言われる、されるがままになっていると、いつのまにか撮影は終わっていた。
とりあえず撮影が終わったことによる安心で息をつき、テーブルのほうへ戻った瞬間、俺に刺さる視線の刺は増していた。
た、確かに隆二さんにまかせっきりで、異様にくっついてはいたが……ここまでとは。
緊張とは違う感情で再び体が固まる。ギクシャクと席に戻れば、とんでもなく不機嫌そうな玲央様が降臨していた。
「お疲れ隆二、さすがね」
「いえ、でも西さんは納得してませんでしたね」
「……そうね」
などと横でされる会話も右から左へ。
今の俺はギロリとこちらを睨む玲央しか視界に入りません。
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