「……できました……っ! できたっ、できましたよ! 匡子さーんっ!」
顔の脂を取ったあと、スチームのようなものをあてられながら爪を塗られ、マッサージをされながら化粧水をなじませて、ミキちゃんさん自慢の化粧セットで未知の世界を展開されたあと、ミキちゃんさんは叫びながら部屋を出て行った。
俺はといえば、化粧中のミキちゃんさんがいちいち「嘘、なにこの肌! すごい!」とか「楽しい〜!」とか喜ぶ言葉に意識が向き、最初の頃より気持ちはだいぶ軽くなっていた。
で、「閉じていてね」と言われた瞼をそっと開け……絶句した。
「……お、れ……?」
大きな鏡に映る顔は、どこからどう見ても女の子にしか見えない。
ぱちりと開いた目の周りには、淡いピンクブラウンがほんのりと。
ふっくらとした頬には、血色の良さそうなオレンジがうっすらと。
まつ毛も派手ではないが、一本一本丁寧に長く伸びている。
唇なんて、明るい健康的な赤色が顔全体をより女の子らしく仕上げている。
……化粧って、怖い。
髪はウィッグを被るのでまとめあげられているが、服は男物なので異様に似合わず、その姿に苦笑を浮かべていると複数の足跡が部屋の前までやってきた。と、思った次の瞬間、そこから現れたのはやはり匡子さんとミキちゃんさんなのであった。
「…………私の目に、狂いはなかったわっ!」
と、匡子さんが目を輝かせながら一言。
匡子さんとミキちゃんさんが手を取り合って喜ぶ姿を見ていると、なんだかますます気持ちが解れていった。
やっぱり本物の女性は可愛いと思う。それに比べて……いや、考えたら負けだ。
それから匡子さんは今回の作戦の仲間であろうスタイリストさんを呼び、事前に用意していた複数のコーデと今の俺とがイメージに合うかを確認していた。
← →
しおりを挟む /
戻る