「いやっ! ……いやいや、仮にそうだとしても、なら違う、もっと顔立ちが女の子っぽい男の人にすればいいじゃないですか!」
危ない危ない。つい納得しそうになってしまったが、ここで首を縦に振ったら一生の恥が生まれる。黒歴史誕生だ。
しかしそんな俺の言葉を聞いた匡子さんの目が、さらに光っていることを俺は気づけずにいた。
「そうね、そのほうが可愛いかもしれないわね。だけど小虎くん、今回必要としているのは、一日だけのモデルなのよ?
化粧栄えのしない子を採用したら、バレる確率が高くなるわ」
お、おおぅ!?
おかしい、おかしいぞこの流れ。
さっきから俺は正論しか言っていないのに、どんどん墓穴を掘っていないか!?
慌てて雄樹と仁さんに助けを求めると、二人はとんでもなくイイ笑顔で俺を見ていた。ちくしょうめ!
「大丈夫よ小虎くん、これ以上ないほど化かしてあげるわ。私を信じなさい」
と、俺の手を両手で握る匡子さんの格好よさに、ついクラクラした俺は……頷いてしまった。
いや、まぁ。化粧で人は変わるって、よくテレビで言ってるし。きょ、今日一日だけだし、声さえ出さなきゃただ写真を撮られるだけだし、大丈夫だいじょうぶ。
なんて、精いっぱい自分の気持ちを誤魔化す俺を余所に、カシストから強制連行した匡子さんの手により、俺はどこぞのスタジオみたいな場所に引っ張って来られた。
あ、撮影日今日だったんですか……てかこれ絶対、俺に決定してましたよね?
「さぁさぁミキちゃん! 腕によりをかけて変身させてちょうだいね! あ、ウィッグはそこのショコラブラウンの使ってね?」
と、どこぞの一室に俺を確保した匡子さん。
ミキちゃんと言われた可愛い女の人は「はい! まかせてください!」なんて元気なお返事である。
あぁこのやるせない気持ちの矛先を、俺はどこに向ければいいのだろう。
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