「小虎くん! お願い!」
「絶対無理です」
夏休みも終盤のバー、カシストにて、俺は匡子さんに頭を下げられていた。
母さんの墓参りも済ませ、じいちゃんとばあちゃんの家でゆっくりと過ごした一週間もあっという間で、お土産を持って帰ってきた俺が雄樹に「温泉行ってた俺よりお肌ツヤツヤしてない!?」と言われるほど、それはそれは充実してきたのである。
最近よくテレビで若者が農業をしに田舎へ行くと言っていたが、その理由が分かってしまうくらい、俺は大自然の中マイナスイオンをたっぷり浴びて帰ってきたのだ。
さぁバイトも頑張るぞ! と意気込む俺を、雄樹も仁さんも温かく歓迎してくれたその日、突然現れた匡子さんが口にした言葉がこれだ。
「お願い小虎くん! 女装してちょうだい!」
……いやいや、無理ですって。都会って怖いわー。
しかしまぁ、理由を聞いてみると少し可哀想だとは確かに思った。
なんでも今回、匡子さんの経営する事務所が、大手女性誌と特集を組むことになったらしい。
匡子さんの事務所は玲央や隆二さんをはじめとしたイケメンが多く、そのイケメンと大手女性誌のモデルとでデートコーデやらお家コーデやらをやるのだとか。
で、問題はここからだ。
本来であれば匡子さんの事務所、01(ゼロワン)の専属モデルが出るはずだが、大手女性誌が指名してきたのは玲央と隆二さんだったのである。
そして末恐ろしいことに、大手女性誌の女性モデルたちが玲央や隆二さんのパートナー争いをはじめてしまったというのだ。
……いやぁ、都会って怖いわー。
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