そのあと、どこかへ行っていたじいちゃんが手に持っていたのは、家庭用の花火セットだった。
お風呂から上がった玲央が「ガキくせぇ」と一蹴したが、俺が花火で遊ぶのを初めてだと知ると、しぶしぶ縁側に腰掛け、線香花火を手に取っていた。つーか玲央が線香花火って……。
「うおっ!? 達郎、ちょっ、あぶないって!」
初めての花火にはしゃぐ俺の側で、火花を玩具だと思っているのか達郎がまとわりつく。触ると熱いんだぞ、これ。
しかし俺の注意も虚しく、飛び跳ねる達郎の足にバケツが当たり、中に入っていた水が地面に置いた花火を濡らしてしまった。
じいちゃんもばあちゃんも慌てて達郎を止めるも遅く、花火は水たまりの底である。
「小虎」
その光景に苦笑を浮かべていた俺に声をかけたのは、縁側で花火ではなく煙草をふかす玲央だった。
玲央に近づくと、なにかの束をポイッと渡される――線香花火だ。
「……ありがと」
「あぁ」
俺の感謝の気持ちに随分とそっけない返事だけれど、十分嬉しい。
ばあちゃんがニコニコと火のついたロウソクを地面に置き直す。
揺れる炎の上に、そっと線香花火の先端を近づけると、パチ……パチッと火花が飛んだ。
「……綺麗」
思わずそう呟くと、近くで見守っていたばあちゃんとじいちゃんが頷いてくれる。
それに笑みを返して線香花火に目を戻した瞬間、大きな手が無遠慮に俺の頭を撫でまわした。
「わ、ちょ、あっ!」
驚いた拍子に火種がぽとりと地面に落ちる。それを見つめる俺のうしろで、犯人はクツクツと喉を鳴らして笑っている。
「……玲央」
「まだあんだろ?」
そう言って笑う玲央の姿は無性に腹立たしいけれど、なんだかとても、胸の奥が温かになったのだ。
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