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思いがけない言葉に目を見開くと、それまで迷いのあったばあちゃんの目はただ真っ直ぐ俺だけを見つめていた。


「自分の暴力のせいで家族を壊したけど、もう一度だけチャンスをくださいって、レオちゃんは頭を下げたのよ」


俺の手を握るばあちゃんのしわだらけの手から、ほんのりと熱が届く。
それは本当にゆっくりとした時間で全身を回ってきたけれど、今、熱く俺の心臓を打ってくる。


「……ばあ、ちゃん」

「だからね、トラちゃん。こんなことをトラちゃんに言うのは間違いだって分かっているけれど、お願いよ……――レオちゃんのこと、お願いさせてね、トラちゃん」


悲痛な面持ちで俺の手を握るばあちゃんが、俺の手ごと自分の胸に抱いた。
少しだけ震えている小さな手は、こんなにも頼りないのに、こんなにも愛おしい。


「……ばあちゃん、俺ね、玲央のことを許したくはないんだ。なかったことには、したくない」

「……トラ……ちゃん」

「うん。でもさ、多分昔のことは許す許さないとか、そういうことじゃないと思うんだ。なかったこととか、多分そういうことでもないんだけど……多分、忘れちゃいけないことだから、俺も玲央も、ちゃんと覚えてなきゃいけないことだと思う」

「……」

「だから俺、思うんだけど、乗り越えちゃえばいいんだよ」

「……え?」


これ以上ないほど苦しむばあちゃんは、玲央がとっても大好きなんだって分かる。
でもばあちゃん、俺だって同じなんだ。玲央が大好きなんだ。


「だからばあちゃんはさ、なんにも心配しなくていいよ。だって母さんは、俺たちを兄弟にしてくれたんだから、すれ違うことも喧嘩することもあるけど、あの玲央が兄貴なんだもん。なんでも出来るよ。ね、そう思うだろ、ばあちゃん?」

できるだけ優しげに微笑みながら、ばあちゃんと同じ目線に自分の顔を持っていく。
ばあちゃんの手が、強く俺を握った。


「……えぇっ、ええ、そうね……そうよね、トラちゃん……っ」


そう言って微笑むばあちゃんは、あの写真で見た母さんにとてもよく似ていた。




 


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