「私たちもね、最初は娘が小虎くんを産むことに反対したんだ」
「……お、れ…」
「でもね、トラちゃん」
ぐるぐると理解したくはない現実が頭の中を行き交う。
そんな俺の思考を止めたのは、他でもなく、祖父と祖母の二人だった。
「トラちゃんのお母さんはね、絶対に産むって言ったのよ。トラちゃんは望まれなかった子じゃない。トラちゃんが私を母として選んでくれたんだから、絶対に産むって……そう言ったのよ」
「……――っ!」
なにかが胸の奥底ではじけ散る。
思わず手に触れる祖母のしわだらけの手を、たどたどしく握ってしまった。
「だからねトラちゃん、生まれてきてくれて、ありがとうね」
たどたどしく握った俺の手を、祖母が両手で包みながら微笑む。
「私たちの孫になってくれて、ありがとう小虎くん」
弱々しく俯きがちだった俺の頭を、祖父が優しく撫でながら微笑む。
ぽろり。と、涙がこぼれ落ちた。
それを拭うことも忘れて下唇を噛みしめる。
そうじゃなきゃ、俺は馬鹿みたいに幼稚な言葉を叫んで、赤ん坊みたいに感情だけを吐き出してしまいそうだった。
幸せなんだと、これ以上ないほど幸せなんだと、この自然あふれる山の中で、叫んでしまいそうになる。
「……っ……ふ、くっ……」
それでも堪えきれずにいた声が唇から漏れ出ると、ふいに知っている手が俺の目尻を親指で拭った。
「馬鹿トラ、嬉しいなら素直に泣け。そのほうが可愛げがあるって前に言ったこと、もう忘れてんのか?」
「――……れ、お……っ!」
若干呆れた顔して、でも決して俺を見放したわけではない温かな瞳に、ついに涙がぼろぼろと音を立てて溢れだした。
肩を震わせて俯く。
祖母の触れる手が、祖父の触れる手が、玲央の触れる手が、別々の温かさを持ちながらも、その全てが俺を優しさで包み込む。
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