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「黒い髪の玲央だ……!」

「……」


それは本当に小さい頃の写真ばかりで、俺なんてまだ赤ちゃんだ。
ベビーベットで泣いている俺の頬を楽しそうにいじる玲央の姿は、今じゃ想像もつかないほど可愛らしい。
泥まみれになって林檎を持つ玲央が、意地悪そうに俺にそれを見せびらかしている写真もある。
かと思えばひどく危なっかしい手つきで俺を抱えていたり、逆に俺に髪の毛を引っ張られている写真もある。
不思議なことに俺と玲央の姿ばかりだが、アルバムをめくっていくと変な写真が目に付いた。


「……顔、が」


恐らく親父だろう男の写真がすべて、顔だけ切り抜かれていたのだ。
それに、親父と玲央が一緒に写っているとき、玲央の表情はなんだか暗い。
不審に思って玲央のほうを見ると、スイカを食べ終えた玲央が視線だけをこちらに寄こしてきた。


「俺が全部切り抜いた」

「……」


どうして? と、聞きたいくせに言葉がでない。
困ったままアルバムをめくる手を止めていると、そこに祖母が手を重ねてきた。


「……あなたたちのお父さんはね、お酒を飲むと変わっちゃう人だったのよ」

「……え?」

「トラちゃんが産まれる前から、あの人は娘に手をあげていたわ……いいえ、娘だけじゃない。レオちゃんにもね、トラちゃんが産まれてから手をあげていたのよ」


――え?
待って、待ってくれ。嘘、そんなの俺……聞いてない。

思わず玲央のほうを見ると、向こう側を見つめる玲央は「昔のことだ」と呟く。
まるで鈍器で頭を殴られたようにショックで身を固めていると、そんな俺の頭上を今度は祖父が撫でてきた。


「娘が小虎くんを身ごもったときも、それは望まない妊娠だったんだ。酒で暴れた彼は娘を乱暴に抱いたらしくてね、そのときに君をお腹に宿したんだよ」

「……う、そ……」


じゃあ俺は、望まれては、いなかった?




 


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