「! お、おいしいっ! です!」
「あらあら、あわてんぼうねぇ、トラちゃんは」
とても嬉しそうに目尻を下げる祖母が、口元を手で隠しながらクスクスと微笑む。
なんだか気恥ずかしくなってしまい、思わず視線を彷徨わせる俺の前に、祖父が一番大きな魚の姿焼きの乗った皿を置いた。
「さぁ、いっぱい食べなさい」
「あ、ありがとう、ございます」
微笑むその温かみの浮かぶ笑顔がとても優しい。
はじめて訪れた場所なのに、なんだかとても懐かしい匂いがする。
テレビもつけない居間の中には、外から訪れる涼しげな風と、虫たちの鳴き声だけがやって来た。穏やかで、ゆったりとした時間の中は、とても心地が良い。
「おいジジイ、俺にもでけぇの寄こせ」
「まったく……玲央は甘えん坊だなぁ」
「うっせーよ。食わなきゃ動けねぇだろうが」
「やれやれ」
そんな自然の中で過ごす穏やかな時間も、玲央にとってはやはり己の世界らしい。
祖父に手を差し出し、二番目に大きな魚の姿焼きを貰うとすぐさま箸をつけていた。
綺麗に骨と皮をとっていく様を見ていると、俺の視線に気づいた玲央が怪訝な顔で見る。
「なんだ」
「え? あ、いや……綺麗な食べ方だなぁって」
「おふくろに何度も直されたからな」
「ふーん……」
そういえば、玲央と一緒にちゃんとしたご飯を食べるのは、今日がはじめてかもしれない。
玲央の変な潔癖症のせいで簡単な料理しか作らないし、外で仁さんの料理を食べていても、そのほとんどがナポリタンとかピラフとかだし。
……魚の食べ方がこんなに綺麗だなんて、はじめて知った。
「小虎くん」
「え?」
「魚はね、まず真ん中に箸で切れ目をいれるんだ。そこから上と下で白身をとる。ほら、こんな風にね」
「あ、はい」
「でね、次は尻尾を持って、ここら辺に箸をいれて……」
俺と玲央を黙って見ていた祖父が、自分の分である姿焼きに箸を入れながら解説をする。その手元を見ながら真似をすると、上手上手と褒められた。
なんだか嬉しくて頑張ってみると、びっくりするくらい綺麗に骨を取り除くことができた。
「うん、小虎くんは玲央より上手だね」
「え? いやいや、そんな」
否定の言葉と共に首を横に振る俺を、祖父と祖母は微笑みながら見つめていた。
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