「そういやさっき玲央たちが言ってたけど、小虎ってお粥ばっか作ってるけど、カクテルは作れんの?」
「え? いやぁ、カシストには仁さんがいますし。ちょっと興味はあるんですけどね」
今度は豹牙先輩と俺の話に隆二さんが混ざってきた。
「ふーん、じゃあ今、試してみる?」
「え!?」
隆二さんの質問に答えた俺に、なんだか優しげに微笑む豹牙先輩の声にまた花が咲いてしまった。いかんいかん、今は仕事中だぞ、俺。
「あの、すごく嬉しいし、お願いしたいんですけど……俺今、仕事中ですし」
苦笑を浮かべて申し訳なく断ると、豹牙先輩と隆二さんが顔を見合わせて頷いた。な、なんだ?
「「じゃあカシスト行くか」」
「へ?」
なぜだか本当に分からないのだが、急に意気投合し始めた二人が俺の両サイドに立ち、腕を掴む。
そのまま螺旋階段を降りはじめると、うしろから司さんの「って、いねぇしっ!」なんて声が聞こえてきた。
かと思えばドタバタと足音が鳴り響いて、
「おい仁! 小虎くん借りるから!」
なんて声と共に、歩みを止められてしまった。
それからなぜか分からないのだけど、豹牙先輩と隆二さんに相変わらず両サイドを押さえられ、珍しくカウンター席に(不機嫌そうに)座る玲央と司さんの二人の前で、カクテル作りを教わることになってしまった。
「あ〜、本当、豹牙はカクテル作りも上手いよなぁ」
なんてデレデレと微笑む司さんに、豹牙先輩は「まだ言ってんのか」なんて顔で睨んでいる。
そんな二人を無視して隆二さんが俺のうしろに回り、シェーカーの振り方を教え始めるとありえない音が耳に届いた。
なんだなんだと音の正体を探ってみれば、不機嫌な玲央の前にスタッフが気を利かせて差し出した殻つきアーモンドが、原型を忘れて砕け散っていたのである。
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