「……でもまぁ、」
そんな玲央の姿をはっきり認識しているだろう隆二さんが、うしろでくすりと微笑みながら話し出す。
「確かに豹牙は色っぽいけど、小虎は小虎で華奢だから、なんつーか保護欲そそられんだよなぁ」
――バキィッ!
――ドゴッ!
俺の脇腹に手を添えて、なんだか色気たっぷりの声で隆二さんがそう言った瞬間、カウンターからまたもおかしな音が鳴り響いた。
見ると、玲央は再び殻つきアーモンドを木っ端微塵にしたらしく、司さんはいつのまにか持っていたジョッキをカウンターに叩きつけていたらしい。というかそのジョッキ、ヒビ入ってますけど。
「ほら見ろよ玲央……豹牙のほうが色っぽいってよぉ?」
「あぁ? ……色気がなんだっつーんだよ。なにも知らねぇほうが楽しめんだろうが」
ゆらり。相変わらずありえない会話を展開しながら、なぜか怒りを宿した二人が隆二さんを睨む。
知ってか知らずか、隆二さんはパッと手を離し、あどけない笑みを俺に向けてきた。
「そういや玲央と司さんの弟自慢は置いておくとして、豹牙の兄自慢は聞いたけど、小虎はねぇの?」
「え?」
あ、兄自慢?
にこにこ。返事を催促する隆二さんに、豹牙先輩まで悪ノリをはじめて「俺も聞きてぇなー」とか言い出す始末。
困った俺が思わず玲央に視線を向けると、やはり感情の読めない表情でこちらを見る玲央の姿しかなかった。
「…………………寝顔が、見れること……かな…?」
なけなしの勇気を振り絞って言うと、辺り一帯がシンと静まった。
……いや、待ってくれ、一応これでも考えたんだ。
女癖は悪いし、喧嘩ばっかりだし、俺のことも殴ってはいたけれど、女にモテるのも喧嘩が強いことも本当だし、ちゃんと俺のことを面倒見ると言ってくれたのだ。
だから恥も外聞も捨てて正直に言ってしまうのなら、玲央の全てが俺の自慢なのだ。
だけどなにか一つ、人に自慢できることがあるというのなら、それは弟である俺しか見ることのできない寝顔……という答えしか浮かばなかった。
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