フフンッとでも言いそうな笑みを浮かべて、機嫌の良くなったらしい獣は満足げに目を細める。
なんだか釈然としないまま、頭上に置かれたままの手に、自分の両手をそっと重ねた。
「……もしかして、心配かけた?」
上目遣いで呟けば、一瞬目を瞠った玲央は呆れたように笑い、
「分かってんなら良い子にしてろ」
なんて、もう一度頭を撫でてくる。
「……玲央」
「あ?」
「……ありがと」
「……おう」
「……」
「……」
「……あのさ、」
「ん?」
玲央の手に重ねた自分の手に、そっと力を込めてみる。
まだ夏だというのに、お互いに汗ばんでいるというのに、不思議と重なる手が心地よかった。
「俺、今回は振りでも彼女作ったけどさ、当分は作る気ないから。当分は……バイトしたり、玲央と過ごしてたいからさ、たまには構ってくれよな」
玲央が忙しいのは分かってる。人と出かけるタイプじゃないってのも分かってる。
でも、たまに、気が向いたときでいい。そのときは少しでいいから一緒に出かけて欲しい。
じっと見つめていると、その瞳が真っ直ぐ俺を見返した。
「……目ぇ離すとすぐ変なことに巻き込まれるようなやつ、ほっとけねぇからな。当分は俺が構ってやる」
玲央の瞳に俺が映っているように、俺の瞳には玲央の姿が映っているのだろうか。
そう思うと途端に嬉しくなってきて、自然と頬が緩んでしまう。
「ありがとう、玲央。元気もらったんで、バイト戻ります」
「終わったら外で待ってろ。どうせだから一緒に帰るぞ」
「え? いいの?」
「そのほうが早いだろ」
フッと微笑む玲央の手に重ねた自分の手を退かす。そうすると頭上からも玲央の手が離れ、ちょっとだけ淋しくもなる。
だけど珍しく機嫌のいい玲央に勝る喜びのほうが大きくて、俺は気合いを入れ直しスタッフルームの扉を開けた。
瞬間、目前で由香里ちゃんが彼氏だろう男を殴り飛ばし、一気に夢から現実に引き戻された気分に陥った俺の隣で、玲央も同じようにげんなりとしていたのであった。
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遅くなりましたが、ぶーさんへ捧げます。
リクエスト内容は「れおがヤキモチ焼くお話」でした。
リクエスト、ありがとうございました!
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