「ちょ、玲央っ、俺まだバイトが」
「あぁ?」
まだバイトがあるというのに、それはもう遠慮のない撫で回しによって俺の髪型は芸術的に爆発していた。
困ったように慌てふためく俺の姿でさらに機嫌をよくした玲央が、最後にもう一度ぐしゃぐしゃと撫で回した。
「はっ、こんな男前じゃ女も逃げてくはずだ。なぁ?」
「嫌みをどうもありがとう。彼女ができない理由を外見のせいにするつもりはないっつーの」
自分でめちゃくちゃにした俺の頭を眺めながら玲央が嫌みを言ってきた。
ちょっとムッとして礼を述べると「へぇ、じゃあ中身も問題なんだ?」なんて聞いてきやがってので、スルーして出口へと向かう。
そしたら後ろから引っ張られて、後頭部が玲央の胸板にぶつかった。地味に痛い。
「お前さ、これで分かったと思うけどよ、変なことに巻き込まれやすいんだから、ちゃんと断るときは断れ。それができなかったら俺に言え」
「……でも今回のは玲央のせいでもあるんだからな?」
「あぁ?」
「玲央の弟だから、俺にしたって言われたけど?」
ちょっと困らせるつもりでそう言って、様子を伺うためにほんの少し後ろを振り向けば、玲央の眉間には予想通り、しわが寄っていた。
「それでも言え。つか、むしろ俺の弟だから断れる理由になんだろ」
「? どゆこと?」
「誰だって面倒くさい人間を敵には回したくはねぇだろってことだよ」
面倒くさい人間だって自覚はあったのか……。そっちのほうに驚きだぞ、俺は。
そんな目をして見つめてでもいたのか。再び玲央の手が俺の頭を無遠慮に撫で回した。
「とにかく、お前は俺の言うこと聞いてりゃいいんだよ」
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