スタッフルームのパイプ椅子にドスンッと座らされた。
痛みに顔が歪んだのを見て、玲央が一瞬ひるんだように見えたが、すぐにその眉間にはしわが寄る。
「……由香里の彼氏はな、いっつも浮気して喧嘩してんだよ。そのたび、由香里が浮気しかえして、最後に殴って終わり」
「え、と……じゃあその、日常茶飯事、てきな?」
「まぁ、そういうことだ」
少しだけ怒りがおさまったのか、玲央が向かえ側のパイプ椅子に腰を下ろして煙草を吸いはじめた。
組んだ膝の上で、人差し指がトントントンと忙しなく動いている。
「……怒ってんの?」
ほんの少し、本当に少し声が震えていた。それに玲央も気づいたのだろうか、忙しなく動いていた指ごと拳を握る。
「怒ってねぇよ」
「……でも、店に来たときすっげぇ顔してたじゃん」
「……むかつくだろ」
「なにが」
「…………俺の弟をダシにされたんだぞ? むかつくだろ」
苦虫を噛み潰したような顔をして、そう呟いた。
一瞬ポカンとしてしまったが、理解が追いつくよりも早く吹き出してしまった。
「なに笑ってんだよ」
「や、だって玲央……っ、なんかそれ、親みたい」
「はぁ?」
だって、なんつーかさ、つまりそれって自分の子供をダシに使われて怒る親みたいじゃん。まぁ俺らの場合は兄弟なわけだけど。
そう説明したいのに、思いの外ツボに入ってしまって、俺はしばらく笑い続けていた。
そんな俺の姿に怒りもどこかへ飛んでいったのか、玲央は小さく舌打ちをして、ふて腐れたように肘をつく。
「ごめ、んなぁ……っ?」
「うっせー、笑いながら言ってんじゃねぇよ」
俺があんまり笑うものだから、玲央はそんな俺の頭をぐしゃぐしゃと遠慮なく、それはもう豪快に撫で回してきた。
それがくすぐったくて身をよじるが、自分が優勢に立てたことが好ましかったのか、玲央はなかなか俺を離そうとはしない。
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