「まぁ、それは違いねぇけどよ、あちらさんも結構えぐいことしてるから、弟思いの玲央は心配でたまらねぇんじゃね−のかと」
「豹牙、てめぇ最近生意気なんだよ、また昔みてぇに気ぃ失うまで躾けてやろうか?」
「はっ、冗談。躾なら小虎にしてやれ」
「あぁ? 俺はもう、こいつのことは殴らねぇよ」
「……ぶふっ」
「なに笑ってんだてめぇ……」
毛先まで指で挟んでいたそれが、そっと頬を撫でる。
夏の湿った空気のせいか、どこか汗ばんでいた。
「あー、わりぃわりぃ。で、話戻すけどよ、なんで泉さんと別れたんだよ」
「戻りすぎだろ」
「んで?」
「っとにてめぇら兄弟は人の話聞かねぇよな、腹立つ」
「ありがとよ、で?」
「……チッ……潮時だと思ったんだよ。泉も隆二もそろそろ素直になりゃあいい。そう思っただけだ」
「へぇー、で、本音は?」
「……はぁ……。あのな、その二重人格どうにかしろよ、てめぇ」
頬に触れていた指がするすると移動した。顎を伝い、首を通り、鎖骨を撫で、肩口までやってくる。
ピリッ。痛みが走って意識が揺らぐ。
「……んっ、れ……お」
「あ?」
指が離れた。代わりに手のひらが頬を覆う。熱く、大きな手。
「……寝言か」
「なぁ、男同士のヤリかた教えてやろうか?」
「知ってるからいらねぇよ」
「知ってんの? うわ、用意周到」
「はぁ? てめぇと司の現場を何回見せられてっと思ってんだ。嫌でも覚えるに決まってんだろうが」
「はははっ」
ペチッ。頬が叩かれる。顔をしかめるが、また叩かれた。
「おい、起きろ」
「ん、んー……?」
「寝ぼけてんじゃねぇよ。もう帰るぞ」
「……れ、お……?」
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