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「豹牙」

「……へいへい」


冷たい兄貴の声が豹牙先輩を呼ぶ。それに撫でていた手を止めた彼が、面倒くさそうに集まった不良たちに体を向けた。


「ブラックマリアをあぶり出せ」


不良たちの目が見開く。なにかの隠語なのだろうか?
ブラックマリアとは、兄貴が総長を務めるチームの名前で、それをあぶり出すとは……どういう意味だ?

俺がその言葉に疑問を感じていた次の瞬間、目の前にいる不良たちが仲間だろう不良たちに拳を飛ばしはじめたのである。
仲間内での乱闘騒ぎ、辺り一面に一瞬で血しぶきが舞う。地面が赤く、染まっていく。


「驚いたか? まぁ、無理もねぇか」


目の前で背を向ける豹牙先輩が、煙草を取り出しながらこちらを向く。
その瞳は冷たく、なにかをひどく拒絶していた。
思わず後ずされば、隣にいた志狼が俺の背中を支える。


「ブラックマリアってのはカードゲームの名前なんだよ。ハーツの一種だ」

「カード……ゲーム?」

「あぁ。今、目の前でやってんのは初代総長が決めたルール」

「……どんな?」


口に煙草をくわえ、火をつけてから煙を吐き出した先輩が、笑う。


「チームメンバーソウマンのふるい落とし」


そう、まん?

知らない単語に困惑する俺をよそに、人を殴る音が廃工場にこだました。

音のほうへ目を向ければ、血で赤く染まった地面に何人もの不良たちが転がっている。恐らく気絶しているのだろう。
その体が邪魔なのか、名前も知らない不良が気絶している不良を蹴って隅へはじき飛ばす。


「……仲間、じゃ、ないんですか?」

「仲間? そう見えんのか?」

「……」

「ここにいるのは不良だ。それが玲央に群がって好き勝手やってる、それだけだろ」

「……」


どこか他人行儀な発言に胸がカッと熱くなる。




 


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