「わりぃ、遅れた」
「謝るくれぇなら遅れてんじゃねぇよ」
巻き込んだ不良など気にせず、豹牙先輩はバイクから降りる。その姿に兄貴が文句を言っていたが……。
バイクから降りた豹牙先輩がバイクにぶつかって体を痛めた不良を眺める。かと思えばいきなり殴り飛ばし、
「なに俺のバイクに触ってんだ、殺すぞ」
とか言っていた。俺の知る彼ではないその姿にゾッとする。
ザザッと身を引いた不良たちは賢明だと思う。
「で? いつはじめんだよ」
「てめぇを待ってたんだろうが」
「だからわりぃっつったろうが。いいからさっさとやれよ」
「あ゛?」
あ、あの兄貴が押されてる……?
いや待て。豹牙先輩は兄貴より年下で、確かにデスリカオーナーである司さんの弟なのだから知り合いでもおかしくはない。
でも豹牙先輩は隆二さんにクラスメイト経由で五百円玉を返してくれたはずで……。嘘、だったのか?
思惑する脳がグルグルと回る。そんな俺に目を向けた豹牙先輩が近寄ってきた。
俺を守ろうとしたのか、志狼が俺の前に立つ。
「なに、アンタ」
「てめぇこそ何様だよ、銀狼。人の後輩巻き込んでよぉ、あ?」
「……アンタも小虎の知り合いかよ、面倒くせぇ」
「こっちのセリフだろうが」
鼻で嘲笑う豹牙先輩が志狼を無視して俺のほうへ近寄った。急に頭を撫でられて驚けば、肩がビクリと跳ねていた。
「……小虎、悪い。嘘ついてた。俺、ブラックマリアの一員なんだよ」
「あ……そう、なん……です、か」
「……怒ったか?」
「いや……怒りはしませんけど、なんか聞いたら、納得しました」
いつもの豹牙先輩だ。安心した俺が微笑めば、豹牙先輩は目を丸くして、かと思えばくすりと微笑む。
「ほんと、無防備なやつ」
わしゃわしゃ。大きな手が俺の頭を無遠慮に撫でてくる。
それに大人しく身を預ければ、嘘をつかれていたことなんてどうでもよく思えてきた。
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