×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

6 - 13



その口から出た言葉に思考が止まる。
あぁ、もしかしてこの人は――気まぐれで楽しんでいるのではないか?
俺のどうしようもない気持ちを感じ取って、それで遊ぼうと優しくしているのではないか?

信じたいくせに疑うことしかできない俺が息を呑めば、兄貴はなにも言わずに煙草を灰皿に捨てた。間を置くことなくまた、煙草に火がつく。


「……俺が嫌いだから、だろ」

「あぁ、嫌いだな。てめぇみたいな言いたいことも言えねぇクズは大嫌いだ」

「……っ」


ほら、やっぱり。
一瞬でも気を許した自分に悔しさが募る。あぁなんだ……夢ってのは、本当に長くつづかない。


「はっ、またそうやってだんまりか? 一体どれだけ我慢すりゃ気が済むんだろうな、てめぇは」

「……」

「さっきみたいに泣いてたほうがまだ可愛げがあったのによ」


つまらなそうに紫煙を吐き出す兄貴の言葉が背中に刺さる。
痛いと言えば、この刺は消えてくれるのだろうか……。消して、くれるのだろうか。

そんな淡い期待をまだ、してもいいのだろうか。


「……じゃあ」

「あ?」

「じゃあっ、言えよ! 今まで俺を殴ってきた理由を! 俺が納得するまで説明してみろよっ!」


本当はまだしていたい。淡くたって馬鹿らしくたって、一瞬でも俺に優しくしてくれた兄貴が本当に存在するのなら、俺はアンタにすがりたい。甘えたい。なぁ、だから言ってくれ――。


「うぜぇから」

「……は?」


なのに、その口から出た理由が、いや、理由にもなっていないそれが、あまりにも単純で滑稽で――馬鹿馬鹿しくて。
悔しい憎い辛い悲しい、色んな感情が湧きあがる中、俺はただただ絶望を覚えた。


「最初に殴ったときもそんなもんだ。てめぇを殴ってきた理由に、納得するに見合うもんなんて一つもねぇよ」

「……」

「悔しいか? けどな、殴ることにたいそうな理由なんて、この世に一つもねぇんだよ」


なんだ、それ。
そうやって殴ることが悪だと分かっているなら、分かっているくせにアンタは――。




 


しおりを挟む / 戻る