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「不良同士でも気に入らねぇから殴る、イラつくから殴る。真っ当な理由なんて掲げちゃいねぇ」

「……も、いい」

「殴りあって芽生える友情? んな漫画みてぇなもん、この世にあるわけがねぇだろが」

「も、いいっ」

「ましてやそれが家族だったら? はっ、家庭内暴力に決まってんだろ、なぁ?」

「――もういいっつってんだろっ!」


ダンッ!
ごちゃまぜになった感情が、俺の拳を床に叩きつけた。
いつのまにか俯いていた顔が、そんな拳を見つめている。

情けないことに、震えていた。

あぁ、そうだ、そうだよな。
アンタに少しでも期待した俺が馬鹿だった。アンタってやつは……そういう人だった。


――ダァアンッ!

「なのにてめぇは痛いとも言わず、抵抗すらしねぇでずっと我慢してきたんだろうがっ!」

「――っ!」


同じように、いや、それ以上の轟音を鳴らして兄貴が床を踏みつける。
驚いて身を引けば、怒りに顔を歪める兄貴の顔がそこにはあった。


「気味悪い人形みたいに体放棄して、殴られても俺に怒りもせず、ずっと我慢してきたんだろうがっ!」

「……なんっ」

「そうやって我慢してなにがあった? あ゛!? 怪我してトラウマ作るしかねぇだろうがっ!」

「な……っ」


まさに威嚇されていると、ただそう思う。
俺の体がうしろに引けば、そのたび兄は体を近づけてきた。
受け入れがたい現実に背を向けようと足に力を込めた瞬間、兄の手が俺の胸倉を掴み、引く。

牙を向けた野獣が、今にもその牙が届きそうなほどまで近くに獲物を置いた。


「気づいてねぇだろうけどよ、てめぇは俺に殴られつづけて頑丈になってんだぜ?」

「――……は?」


牙を向けたまま、野獣が卑しく口角を上げる。


「怖いよなぁ、人間の体ってのはよ。俺に殴られても気ぃ失わないくらい頑丈になってよ、それでもまだ、てめぇは俺に怒鳴りもしねぇ」

「……」

「真っ当な理由もなく殴られつづけてると分かってるくせに、それをどうにかしようともしねぇ」

「……」

「しまいにゃ俺が消えたら一人になる? てめぇはどこまでクソなんだよ、小虎」


小虎、そう兄が名前を呼んだ瞬間、どこかへ逃げ出そうとしていた自分が無理に戻された気がした。
落ち着かない感情が忙しない。どうにかしなきゃと思うほど、焦るだけの自分が歯がゆい。
俺の手はそんな考えを置き去りにしたまま、胸倉を掴む兄の手を剥がそうとした。当然、俺の力で剥がれるものではないのだけど。




 


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