「……問題を起こした雄樹が、どんな形であれ和解したところで……チームの空気が悪くなるから……だと、思う」
「――はっ」
俺の考えを口にすれば、それを聞いた兄が馬鹿にしたように息を漏らす。
その手に持つ煙草の灰が、酒や料理で汚れた床に落ちていった。
「それでいいんじゃねぇ?」
「……」
なんだ、それ。
少しイラつきもしたが、否定ではない言葉に口を閉ざした。
違ったんだ。兄はチームのことなどどうでもいいとか、そんなふうには思っていない。きっと、兄はチームが好きだ。自分の周りに集い、勝手なことをほざく連中でもチームが好きなんだと思う。
だから芝居まで売って隆二さんたちの仲を取り持ったり、恐らくそのままチームにいても苦痛な思いをするしかない雄樹を追放したのだと思う。
考えていないようで、自分中心なようで、意外と、思っている。
残念なことに、それを家族である俺に向けていることはないだろうけれど。
俺は兄に背を向ける。しかし、うしろのほうで物音がして振り返ってしまった。
そこにいたのはソファーに座っていたはずの兄で。
煙草を足で踏みつぶした……兄の姿。
「で? 偽善者ごっこは終わりか?」
「……は?」
「は? じゃねぇよ。てめぇは今、誰のためにそんな口聞いてんだって言ってんだよ」
なに、言ってんだ?
意味も分からない言葉に顔をしかめそうになれば、兄は俺を通り過ぎ、その足で不良の背中を蹴り飛ばす。
え、なにしてんだ、この人。
「これだろ? てめぇを殴って、そんなたいそうな怪我負わせた馬鹿はよ」
「……そう、だけど」
「なんでてめぇはこれに謝罪を求めない? 雄樹のことには求めて、なんで自分のことには求めない?」
「……それは」
答えられずにいれば、兄が鼻で笑った。
「求められねぇよな? お前は自分のことなんてちっとも考えちゃいねぇ。いや、他人のためだと銘打って、結局は最後の責任を他人に押し付けるために、自分のことはないがしろにするんだからよ」
「――……っ!」
「正義感振り回して他人のために怒る? んなくだらねぇことする暇があったらな、自分のために怒るくらいのもん見せろよ、クソが」
ぶちっ。そんな音が聞こえた気がした。
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