「意味、分かんねぇ……っ」
「あ?」
ぐっと拳を握り、兄を睨む。
「アンタのっ、アンタらのせいだろうがっ! 散々理由なく俺を罵って、俺に諦めることを染みつかせたのはっ、アンタらだろうがっ!」
「は?」
「他人のために怒る!? しかたねぇだろっ! 自分のために怒るなんて、そんなんずっと昔に忘れてんだよっ!」
怒りに身を任せ、俺の手は兄の首元を……届かないので胸元を掴む。
「いまさら俺に説教垂れるならっ! 今からでも兄貴面かまして世話してみろよ! ――クソ兄貴がっ!」
シン……と、店内が静まった。
俺の手はまたもや文字通り固まっている。
……また、やってしまった。
「……いいぜ」
「は?」
なのに、なんでだよ。
兄貴は自分の胸元を掴む俺の腕を掴み、口角をつり上げやがった。
「こうやって自分のために牙磨いて、自分のために向けるっつうなら、てめぇの世話は俺がしてやるよ――小虎」
「……――っ!?」
俺の耳はついに壊れたのだろうか……今、この、目の前にいる兄貴は……なんて言った?
驚いて口を開けたまま呆けてしまえば、兄貴は胸元から俺の手を剥がし、煙草を咥えて火をつける。
そのまま当たり前とでも言うようにもう一度、俺に怪我を負わせた不良を蹴って、その襟元を掴み、歩き出す。
「おい仁、そういうことだから俺たちも解禁だ。いいな?」
「……好きにしろ」
エレベーターの前で立ち止まった兄貴が仁さんにそう言って、複雑そうな表情で答える仁さんの声も俺には遠かった。
扉が開いたそこに、兄と慌ててついていく不良たち、こちらに一礼した隆二さんが収まれば、空間を遮断するように扉が閉まる。
その瞬間、俺の体はへなへなと崩れ落ちた。
「……」
「トラちゃん……大丈、夫?」
「……雄樹」
そんな俺に恐る恐る声をかけてきた雄樹のほうに顔を向けることなく、言った。
「どうしよう……腰、抜けた」
「……えー……」
「……あ、それからごめん。さっき、叩いて……ごめん」
「え、えぇー……」
俺と雄樹の、情けない声だけがカシストにはあった。
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