Funny
「ハルカ先輩……その傷……」
一刻も早く休みたい。
休息を欲している自分に気付き、厨房へは寄らず真っ直ぐ寮へ戻ることにした。
ホグズミードの日なので、下級生しかおらず、人の少なさに感謝をしていた。
が、その感謝は光も追いつけない勢いで消滅した。
「レギュラス」
寮へ向かう途中の、普段から人通りが少ない廊下で、また背後から話し掛けられた。
足は止まったものの、顔が後ろを振り向く余裕が……勇気がない。
傷のこと、なんて言おう。
「……エイブリー先輩とマルシベール先輩ですよね」
言う必要なかった。さすがである。
振り向きレギュラスの姿を確認すると、足と腕、首元を驚いた表情で──また悲しそうに見ていた。
「……先輩も聞いてると思いますが……先輩。僕との婚約を、どうか受け入れて下さい」
「ヴぁ」
「僕と婚約を結べば、ブラック家からの圧力をエイブリー家とマルシベール家にかけることができます。そうすれば、あの二人は先輩に近づくことができない」
「それは」
それは……正直、とても魅力的だと思う。
けど……
「それとも……ハルカ先輩は、もう心に決めた相手がいるんですか……?」
「──っ」
ひゅっ、と。
上手く息が吸えなかった。
まただ、またこの瞳。
悲観と狂気に揺れる双眸。
「……そうだとしても僕は諦めませんが。寧ろ、その男を────」
「あー!レギュラス、ごめん!私、マダムポンフリーのとこ行ってくる!」
今、レギュラスの口からその続きを聞くと、吐いちゃいそうで。
胃から込み上がる何かを必至にこらえ、喉に力を入れてそう叫べば、私は足早に医務室へ向かった。
レギュラスは何も言ってこなかった。
ただ怒りまでもを孕んでしまった双眸が、いつまでも突き刺さるような。そんな感じがした。
確実に、変化が私を陥れようとしている。
私は一心不乱に走った。
[*prev] | [next#]