ビリビリビリビリ


私はラクサスが好きだ。
恋愛の意味で。
一目惚れ……にも近かったし、お互い切磋琢磨し合っていた時期にラクサスの格好良さを知った。
だからこそ、


「はぁぁぁぁぁぁぁ」

「フェリエ、今日も絶好調だねぇ」


辛い。

そりゃあ辛い。
いくらこんなお口悪くって大層なことを言っても。
好きなもんは好きだし、辛いもんは辛い。


「酷いよカナァァ……」


この事実を知っているのは、樽ごと飲み込みそうな勢いで酒を飲んでいる古い付き合いのカナだけ。

……だと信じたい。


「しっかし昔はあんな仲良かったのにねえ。一体何がどうしたっていうんだか」

「知らん……私以外の人には反抗期の態度なのに、私には餓鬼のいじめの態度だよアレ……」


笑いながらも話を聞いて一緒に考えてくれるカナ。
好き。


「ま、気分転換でもどうだい?」

「気分転換んん?……夏祭りはまだ先だよ」

「違う違う!最近新しくできたバーがあってね。良い酒と良い男が──……」

「えー……んー……あー……悪くないかも。良い酒とおと──」

「おい」


地を這うような低い低い声。
振り向かずとも、声となんとも言えないカナの表情で声の主が分かった。


「……なに、ラクサス」

「依頼だ。付き合え」

「はあ!?」


はあ!?

……はあ!!??

急になんだコイツ!?
あまりに驚いて変な声すぎてカナが笑っとるやないかい!!


「依頼だっつってんだろ、一回で聞き取れ」

「いや……はあ?なんの依頼か知らないし……え……ええ……??いや、なんで私を誘ったのか知らんけど……行かないし受けないし」

「何でだよ」

「何でって……もう夜だし、カナと飲みに行くから」

「……その良い酒と良い男がいるバーにか?」

「そうだけど」


いつから聞いてたんだか。
……ああ、滅竜魔導士って目だか耳だか鼻がいいんだったね。私自身あまりその恩恵を感じられないから忘れてたえへへ。
にしても、それでラクサスが機嫌を損なう意味が分からない。
機嫌を損ねたいのは訳も分からず想い人にいじめられ嫌われ、あまつさえ訳も分からず依頼に誘われる私だていうのに。


「チッ……」

「うわっ!?」


また舌打ち。
と思った頃には、私の腕は強引に引かれていた。
振りほどこうにも、どうにもこうにもがっしりとした大きい手を振りほどく力は無かったらしい。


「ちょ、な……まず離して依頼内容聞かせろって……!」


せめてもの抵抗で歩みを進める足を止めようとする。
すると思いの外ぴたりと止まってくれた。
なんなんだ。


「護衛だ」

「あ?」

「パーティ中の貴族を護衛する依頼だっつってんだよ。男女ペアが条件だって……オラ、ここに書いてんだろ」

「いや知らねーーーーよ!今初めて見たわ!!……っていうか、なんでそんな依頼」

「とっとと行くぞ」

「わ、ちょ、まっ……」


チラッとカナの方を振り返ると。
ニコニコしながら手を振って──何かを呟いていた。
助けてくれそうにはない。
一体なんなんだ、今日は。
















「不器用だねえ、どっちも」



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