ミライへ 「…さあタイム、やってみなさい」 「……うん」 研究室に、三つの影があった。 老人と二体の少年ロボットの影が。 老人、ライトは優しい微笑みを浮かべて一体のロボット、タイムにそう声をかける。 何かあったらすぐ戻って来なさい、その言葉と同時に彼の手に小さな機械のようなものを乗せた。 タイムはそれを受け取ると、緊張したように返事をし、希望と期待、そして不安も含まれた表情を浮かべた。 ふと、そんな彼の手を握ったのはもう一体のロボット、アイス。 まるで天使のような優しい笑顔を見せると、彼につられるようにタイムも微笑んだ。 「気を付けて行ってくださいであります、タイム様」 「ん…行ってくる」 握っていた手を離し、少し距離を取る。 タイムの表情は一変した。 集中するのが伝わってくる表情へと。 彼の周りに、いくつもの光が出現する。 それは彼の中に入り込むかのようにして消え、また周りに現れては消えていく。 言葉に出来ない声をタイムが出した時、ライトとアイスの視野から彼は消えていた。 「行ってらっしゃいであります…タイム様」 研究室に、どこか寂しそうな彼の声が響き渡った。 *** タイムが目を覚ました時、そこは茂みの中だった。 アイスとライトの姿は無い。 何が起こったのかと一瞬混乱する彼だったが、すぐに状況を把握する。 ――時間旅行。 彼は、未来へとやって来ていた。 時間旅行実現の為生み出されたタイムは、今まで何度も時間旅行の実験をしてきた。 しかし中々実らず、失敗を繰り返していた。 時を超えること、それはライトの夢であり、そしてタイム自身の夢でもある。 失敗する度ごめんよ、と謝罪するライトの表情を思い出すと、タイムのコアはまるで何かに締め付けられるかのように痛むのだった。 うつ伏せになっていた彼は、立ち上がろうと動き出す。 しかし、全身が重たく感じ、普段のように立ち上がることが出来なかった。 「な、んだ……体が……」 全身が重たいと同時に、まるでオーバーヒートしているかのように熱く感じられた。 ようやく立ち上がることが出来ると、彼は辺りを見回した。 見慣れない、しかしどことなく現代の面影を感じる景色。 タイムのコアが高鳴り始めた。 とある一つの建物にかかったモニターに映し出された日付が、その期待の高鳴りの正体を証明した。 「……!」 モニターに映し出されたのは、未来の日付。 間違いなかった、彼は今この瞬間、最初の時間旅行を迎えることが出来たのだった。 彼自身が気付かぬうちに、彼のアイカメラから一筋の涙が零れ落ちた。 夢が叶った、いや、夢に確実に近付いたのだと。 涙に気付くと腕で拭い、茂みから出て辺りの景色をしっかり見ようと彼は歩き出す。 視野がぼやけだし、彼はふらついた。 茂みから道端へと出た時、彼の目に映ったのは未来の景色。 それをしっかりと確認したと同時に、彼の意識は遠のいた。 その場に崩れ落ち、気を失った―― *** 「……ん……こ、こは」 タイムが目を覚ました時、そこは柔らかく暖かく感じられるベッドの上だった。 何があったのか、彼は再び混乱する。 全身が重たく、熱く感じるのは相変わらずだった。 視野もぼやけていて、ここがどこなのか、あたりの雰囲気すらもはっきりとはわからない。 辺りを見回そうとした時、扉が開かれ、誰かが部屋の中へと足を踏み入れた。 それを見てロボットだと言うことは辛うじてわかったが、姿がはっきりしない。 時間旅行の反動なのか、アイカメラが故障してしまったのかもしれない。 「…気が付いたのでありますね…!」 特徴のある喋り方。 タイムのコアが高鳴り、不思議に思った。 この声を彼は知っている。 知っているはずだが、どうしてかその答えが出てこない。 いや、答えはわかっていたのかもしれない。 ただ、その者の姿が見えず、確信が持てないだけで。 「ここは…」 「ここはわたくし達の家でありますよ」 「達……?」 「道端で倒れていたのであります。覚えていませんか…?」 「……そうだ、ボクは」 一時前に意識が遠のき、気を失ったことを思い出すタイム。 全身は重たく、熱い。 アイカメラも故障し、気を失うまでに至った事を思うと、ライトから受け取った機械を使い現代に戻った方が良い事は一目瞭然だった。 しかし、彼の欲望がそれを阻む。 もう少し未来を見てみたい、と。 ふと、毛布の上に置かれたタイムの手が温もりを感じ取った。 正体は彼――彼女かもしれない――の手だった。 どこか冷たい、しかし優しく暖かく感じる温もり。 初めて感じた気がしない、とても愛おしく感じる感覚。 「…無理をしては良くないであります」 そう告げると同時に、タイムに渡されたもの。 それは現代でライトから受け取った、現代に戻るための機械だった。 よく見えはしなかったが、形と感覚でそれだということがわかった。 「なんで、これを…。オマエは…一体…」 タイムのアイカメラには映っていないだろう、ロボットの微笑み。 その機械を作動させると、彼に届けるように言葉を告げた。 あなた様のことが大好きな者であります、と。 彼の意識が遠のいたと同時に微かに聞こえたその声。 それは彼に夢だったのではないかと思わせたが、彼の聴覚機能には確かに届けられたのだった。 *** 「――タイム様……!」 目覚めた時、タイムの聴覚機能に届いたのはアイスの声だった。 現代に戻ってきたのだろう、彼はゆっくりと目を開ける。 アイスの姿を確認すると同時に、傍にいたライトの姿も確認出来た。 「アイス…か…?」 「そうであります…!」 アイスに支えられながら、タイムは上半身を起こす。 全身は変わらず熱く、重たいまま。 視野もぼやけ、愛する者の姿もはっきりと見ることが出来なかった。 「博士様っ…タイム様のお身体がとても熱いであります…!」 慌てた様子でライトにそう言うアイス。 ライトは落ち着くよう促すと、タイムへと歩み寄った。 時間旅行の反動だとライトは説明した。 反動はあったものの、未来へと確かに行けたことは事実。 タイムはその事を嬉しそうに話した。 彼の表情が本当に嬉しそうで、アイスもライトも嬉しそうにその話を聞き、微笑んだ。 夢の実現へと一歩近づいた、進展があった日だった。 「…アイス」 「はい…?」 ――未来のアイスに会った。 視野がぼやけ、はっきりと確認は出来なかった。 確信はないが、あれは間違いなくアイスだった。 現代と変わらない優しさと暖かさを感じたと、タイムは先程以上に嬉しそうに話した。 そんなタイムを見て、アイスのアイカメラからは涙が零れた。 タイムには見えていないだろうその涙。 彼は本当に嬉しそうで、アイスも喜びで満ちていた。 メンテナンスをするよ、ライトの言葉を聞き、アイスはタイムをおぶった。 普段なら下ろせ、と抵抗するタイムだったが、今回は何も言わず、アイスを愛おしく想いながら身を預けた。 そんなタイムを同じように愛おしく感じるアイス。 微笑む二体が幸せそうで、ライトの表情も自然と綻びていたのだった。 *** タイムの時間旅行が初めて成功…いえ、時間旅行に近付けた時のお話が書きたかったんです´`* 同時に成長したアイスと成長前のタイムが合うきっかけにもなるのでないか…と書いた結果このような感じに…^^* 2015/3/31 [*前]【TOPへ】[次#] |