十八

季節は巡り、夏の盛りを迎えていた。
強い日差しに育まれた木々は葉を青々と繁らせ、力強く命を謳歌しているようだった。

反してナマエは、一年の内で最も辛い時期を毎日ひたすらに耐え忍んでいた。
山の頂に近いこの庵は麓に比べて気温が低いとはいえ、やはり暑いものは暑い。

己の妖力を用いて冷気を身に纏い、体力の消耗を避けた。
夏は、一年で一番身の守りが危うくなる季節だ。



日が傾き、真昼の猛る暑さが和らいだ頃、この日も風間はナマエの庵にやって来た。
京の夏は暑くて敵わぬとか、冷気を作り出すナマエの側にいると涼しく過ごせるから良いとか、何かと理由を付けては彼女に会いに来ていた。

今では妖たちもすっかり風間に慣れ、風間が庵を訪れても慌てて隠れるような事をしなくなった。
自分に近しい者として彼等を愛しく思っていたナマエは、その変化を嬉しく感じていた。

一刻か二刻か、時には半日過ごす事もあるが、風間は自分の手が空いている時は必ずナマエのもとを訪れていた。
そしていつも特に何をするでもなく、他愛ない話をして帰るのだった。

今日もその“いつもと同じ”日が過ぎ行くはずであった。

『…』

木々の合間を縫うようにしてやってきた風間は、出迎えのナマエの顔を見た瞬間に渋い表情をした。
今日も相変わらず疲労の濃いぐったりした雰囲気を醸している。

『…何よ』

口から出てくるいつも通りの無愛想な言葉も、何処か覇気が無い。
夏場は毎年こうだと聞かされてはいるが、それでもやはり気に掛かる。

風間は手を伸ばし、ナマエの頬を手の平で包んだ。
彼女はひやりと冷たかったが、その色は火が出るかと思うくらい赤かった。

『身体を厭え。お前の身体は子を産む身体なのだぞ』

『!』

真っ直ぐ目を見つめられてそう言われると、自分を欲してそう言われていると思ってしまう。
ナマエは急に鼓動が早くなり、胸が苦しくなって動けなくなった。

(またどうして、この人はこういう事を平然と…!)

目を見開いて動かなくなったナマエを見て風間は、ふん、と言って浅く笑った。
しかしその顔は、それまでと違い、慈しみの思いに満ちた優しいものだった。

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