十七

それから風間は三日と開けずにナマエのもとへとやって来た。
始めこそ意地で嫌そうな素振りを見せていたナマエも次第と心を許し、笑顔こそ無いものの、風間の気配があれば必ず庵から出て彼を迎え、去る時は見送りをした。

風間は身体も心も強い鬼だった。
自らが背負うものを心底大事に思い、己の務めを正しく果たすべく、いつも邁進していた。

それははっきりと口に出して言葉にしたものを聞いた訳では無いが、ナマエは風間との会話にて、言外に彼の意志を強く感じていた。
彼は水面下の努力を秘する質の者だった。

なんて、毅(つよ)い人なんだろう。

風間と話せば話すほど、接した時間が積もるほど、ナマエは風間に惹かれていった。

しかし想いが強くなるほど、別の考えも膨らんでいった。
それは、混血の自分が風間には相応しくないという考えだった。

会話の最中、折に触れて風間はナマエを“口説いて”いた。
始めはとても本気で言っているとは思えず、雪女である自分を利用する為に謀ろうとしているのではと、一時期は疑心暗鬼にまで陥った。

しかし、たまに見せる真摯な眼差しや真剣な言葉から、彼が本当に自分を正妻に望んでいる事が窺い知れた。

ナマエはそれが嬉しかった。
初めて誰かに必要とされた、という事が嬉しかった。

時々、風間が心から自分を欲し、愛情を以て嫁にと望んでいると“勘違い”しそうになったが、ナマエはその想いだけは胸の深い所へ押し込もうとしていた。

この様な自分が誰かから愛される事などある訳がない。
ナマエはそう思っていた。

風間に惹かれていたからこそ、その彼を思って自分は相応しくないと、ナマエはそう考えていた。



風間はナマエが時折見せる陰りのある表情が気になっていた。
何かを憂えている事は確かだが、それが何に因るものかは解らない。

ナマエと長く過ごす様になり、彼女が見た目だけではなく内面も美しいのだと知った。
人間を強く憎んでいて多少鬱屈した部分もあるが、芯がしっかりとして、しなやかな竹のようだと風間は感じていた。

ナマエは信条に絶対の自信を持ち、鬼と雪女の力を併せ持つ己の能力に矜持があった。
風間は何よりそこに興味を引かれた。

話していても、こちらに臆する事なくぽんぽんと何でも発言し、たとえそれが対立する意見であったとしても、一本筋の通った物の見方で風間を圧倒する事すらあった。

加えて、一度彼女の舞う雪華の舞を見た事があったが、あれは正に“絵にも描けない美しさ”というものであった。
人間の男を惑わせて食らうという言い伝えが広まるのも尤もだと思えた。

風間は今まで生きて来て誰か一人にこれほど固執し、手に入れたいと感じた事が無かった。
自分の心をこれほど揺さぶるナマエという存在が、彼にとって今一番大きいものだった。

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