十八

歯磨きまで済ませた所で、タオルを首に巻いてリビングに向かう。
斎藤君はソファに胡座を掻いて寛いでいた。

『上がりました』

『ああ』

お湯を貰った事にお礼を言って斎藤君に近付くと、私は彼の前に座らされた。
髪を乾かしてくれるというのだ。
こういうのってちょっと嬉しい。

髪を弄られるのはとても好き。
美容院で頭を洗って貰う時なんて気持ち良くて眠くなるくらいだ。

『…』

ドライヤーの音を聞きながら少し俯いて目を閉じた。
斎藤君の骨っぽい手が私の髪を細かく左右に掻きながら乾かしていく。
暖かいし手の感覚は気持ちが良いしで、私はすっかりいい気分になっていた。
今ならこのまま眠れそう…。

『…終わりだ』

機械の音が止んでそう声を掛けられた所で、はっと意識を戻した。
危ない。今ちょっと寝てた。

『あ、ありがとう』

軽く髪を整えながら斎藤君を振り返る。
彼はドライヤーのコードを纏めながら少しだけ笑った。

『♪』

斎藤君に乾かして貰うと髪がふわっと纏まるから嬉しい。
指に毛先を絡ませて眺めていると、いきなり脇に手を差し入れられてそのまま抱え上げられた。

『わっ、』

ソファまで抱き上げられて、私は軽々と斎藤君の腕の中へ。
彼が身体を横へずらして後ろに倒したので、何となく私が押し倒したかのような格好になってしまった。

少しの期待感を持って斎藤君の目を見る。
目が合うと、彼は目付きを細めて私を見返した。
顔が近い。

そっと頭を下ろして、彼の胸に頬を乗せる。
すると頭に斎藤君の手が乗せられた。

呼吸の度に上下する胸板の動きが不思議と心地良い。
とろん、と目を閉じると、優しく頭を撫でられた。

このまま寝られたら幸せだな…なんて思う間もなく、一瞬で体位がひっくり返った。
驚きのあまり細かい瞬きを繰り返して斎藤君を見上げると、彼の目は何かのスイッチが入っていた。
私を見下ろす目が先程までと明らかに違う。

狩人みたいな目にぞくぞくする。
今の私はさしずめ追い詰められた手負いの獣だ。

卑しくもこの人を欲しいと思ってしまう私の顔は、一体どんな顔をしているんだろう。
ほんの少し誘う気持ちを込めて斎藤君の首に腕を回すと、彼は覆い被さりながら深いキスをくれた。

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