十七

俺と入れ違いにナマエが浴室へ向かった。
片付けは済ませてあると言う彼女の背を礼を言って見送り、いつもの定位置に腰を下ろす。

『…』

髪を拭いながら何となく口寂しさを覚える。
後もう一杯くらい飲もうかと思ったが、今し方歯を磨いたばかりだと思い直した。

それに、あまり酒を入れすぎるとこの後に支障を来す。
…スタミナ切れで泣く泣く断念などという無様な真似は絶対に避けたい。

今宵は特に身の内の熱を強く感じる。
これは、ナマエを抱かねば果てぬであろう。

理由は明白だ。
昼間の総司に、退社時の左之。
あいつらが必要以上にナマエに接していた故、俺の中で“面白くない”という感情が強まったのだ。

ナマエが掛け湯を使う音が聞こえてきた。
上がり際に浴槽に湯を足しておいたので、足りぬという事はないだろう。

あいつは…何度諭しても他の男に対して無防備極まりない。
俺が気にし過ぎだというが、断じてそのような事はないはずだ。

まず、自分の容姿が麗しいという自覚が無い。
次に、うちの会社は男の割合の方が高いという事を忘れている。

俺がこれまで陰ながらどれほど多くの粉を払ってきたか、ナマエは知る由も無い。
彼女に好意を持つ男がどれだけいるかなど、決して話してやるつもりはないのだが。

先程少しだけ話をしたが、左之と何をしていたのか、あいつは詳しく話そうとしない。
…お、俺の事を物凄く好いているという話をしたとは聞いたが、果たして本当かどうかは解らん。

『……』

シャワーを使う音が聞こえてきて、俺は思わずナマエの一糸纏わぬ姿を想像してしまった。
急に鼓動が早まり、顔がかっと熱くなる。
俺は反射的に手の平で口を覆った。

どうかしている。
今まで生きてきて、何か一つのものにこれほど心を囚われた事など無かった。

ナマエの存在が俺を撹乱させる事に、正直戸惑いを覚える。
しかし、これが人を本気で愛するという事だろうとも思う。

…早く、全身で彼女を感じたい。
ナマエは俺のものであるという証を刻みたい。

頭からバスタオルを被って長く息を吐き、目を閉じて凶暴な感情を何とかして押さえ込む。
そうして暫く動かずにいた後、俺は浴室から響く水音を束の間追いやる為にドライヤーのスイッチを入れた。

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