絵文字とかを使わない、ただの文字だけのメールっていうのがまた何とも彼らしい。
同じ文章を一字一句丁寧にもう一度読み返すと、どうしようもなく興奮した。

『〜〜〜っ!』

奥歯をギュッと噛んで、喉から声が漏れそうになるのを必死で堪える。
メールフォルダを閉じてスタート画面まで戻すと、私はケータイを胸に押し当てた。

付き合い始めて結構経つし、お泊まりも別に初めてじゃない。
毎日会社で顔を合わせるけど、プライベートを一緒に過ごせるとなると、私は未だにドキドキするのだ。

…早く仕事終わらないかな。
シンクから離れてヤカンに向き直り、熱の篭った溜め息を吐く。
すると、

『!?』

その瞬間に後ろから誰かに目隠しされた。

『…だーれだ?』

ちょっと楽しそうな男の人の声がした。
このイケメンボイスは間違いない。
斎藤君とよく一緒にいる、あの人だ。

『えっと、沖田さん…ですか?』

『あれ、解っちゃった?』

沖田さんは目隠しを外して、ニコニコして横から私の顔を覗き込んだ。
彼も私や斎藤君の同期なんだけど、フロアが一緒なだけで部署が違うので、なんとなく“さん付け”で呼んでいる。

こうして口を利くようになったのだって斎藤君と付き合い始めてからなんだけど、彼は何だかんだと私にちょっかいを出してくる。
一体何を考えているのか、ちょっとよく解らない。

『てかナマエちゃん、僕の事は総司でいいよって言ったでしょ?
また名字で呼んでる』

『そ、それは』

沖田さ…君と仲良しなのは斎藤君なのであって、私はそこまで彼と仲良くない。
仲良しだっていうと斎藤君は何故だか否定するのだけど。

接点を持ったのだってつい最近なのだ。
そんな相手に対していきなり名前呼びのタメ口だなんて、私にはハードルが高過ぎる。

『今はまだ勤務中だから、ある程度は節度を持った言動をしないといけないかなって…』

しどろもどろに言い訳をすると、沖田君はネコのような表情で笑った。

『あはは、何それ。
なんか一君みたいな事言うんだね、ナマエちゃん。
似た者同士ってやつなのかな』

からかうような声音でそう言うと、沖田君は一瞬表情を消し、目の動きで後ろを窺う素振りを見せた。
どうしたんだろう、と思っていると、次の瞬間にずいっと顔を寄せてきた。

『なっ、』

私は驚いて顎を引いた。

『ナマエちゃんって本当可愛いね。
…一君には勿体ないかも』

斎藤君も格好良いけど、沖田君もかなり格好良いと思う。
そんな人から声を潜めて囁かれたら、どんな女子でもドキっとする。
…いや、決して浮気の類いではないんだけど。

目をぱちくりさせて何も言えないでいると、沖田君の手が私の肩に掛けられた。
と、その時。

『何をしている、総司』

冷静を装った酷く怒った声で沖田君の名前が呼ばれた。
この声は間違いなく斎藤君だ。

沖田君の肩越しに顔を覗かせると、案の定斎藤君がそこにいた。
努めて無表情であろうとしてるけど、私には彼の背中に鬼の影が見えたような気がした。


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