風間の家のお庭も広くて大好きだが、お山もお山で楽しくて大好きになりそうだ。

千瀬は息を切らしながらも飽きることなくひたすら駆けずり回っていた。
後ろをついてくる乳母などはもう、追従を諦め、だいぶ離れたところをゆっくりと歩き、見失わぬようにじっとこちらを見つめている。

お庭はどこまでも平坦で、全力で真っ直ぐ駆けたってなかなか何にもぶつからない。
極稀に、鍛練中の天霧に避けきれなくて体当たりしてしまうことはあるのだが。

お庭にはたまに背の低い木もあって、それは千瀬にとって格好の木登り遊びの相手になる。

だがこのお山はどうだろう。

足元は殆どなだらかな斜面で、お庭のように平坦な場所ばかりではない。
また、何処を見渡しても深い枯れ葉に覆われている。
先ほど枯れ葉を掻いてみたが、地肌に辿り着くまでだいぶあった。

ふかふかした足元の感覚が嬉しくて、着物を汚すことを覚悟して思いきって背中から倒れこんでみた。
地面は千瀬の身体を優しく受け止めてくれた。
…そして乳母に鬼の形相で叱られた。

辺りに生える木々も、お庭のものと比べ物にならないくらいどれも大きく立派に聳(そび)え立っている。
これでは流石に登って遊ぶことは出来ない。

近くに立って見上げてみると、父に似た圧倒的存在感を感じる。
もしかして実は鬼の仲間なのではないかしらと、千瀬は両腕を広げて抱きつき、耳を大木へと当てた。
しかしやはり心の臓の音は聞こえず、温もりもなかった。

草木は不思議だ、と千瀬は思う。
獣や自分達鬼のように血潮も心の臓も持たないのに、確かに生きていて、彼等なりの生を全うしている。

しかも、枯れたり死んだりすると、その体は別の草木の糧になるのだという。
何故そのようになるのか、誰に教わったわけでもないのに、何故皆が皆その理に則っているのか、千瀬はどうしても気になって、その話をしてくれた乳母を問い詰めたことがあった。

しかし乳母は困った顔をするばかりで、そこまでは解らないという。

千瀬は考え事を始めると熱くなる質で、この草木のこともずっと頭にあったのだ。
故に、今日のこの紅葉狩りは彼女が誰よりも心待ちにしていた。

同じ草木でも、風間のお庭とお山ではまったく様相が異なる。
それが楽しくて仕方なく、もっと多くを見たい、触りたいという思いが千瀬の身体を突き動かしていた。

[ 125/130 ]

[*prev] [next#]

[目次]

[しおりを挟む]



【top】




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -