頂上付近に開けた場所がある。
小さな山なので大した標高ではないが、それでも里を一眺め出来る高さはあり、漫(そぞ)ろ歩きには丁度良い所であった。

風間が此処を休息の場と定めると、共の下人達が手早く支度を始めた。
美しい朱色の毛氈(もうせん)を広げ、その傍に大きな野点傘を立てた。

三つ子達が我先にとその広い毛氈へ飛び込むと、下人達は微笑み、その様を暖かな眼差しで見た。
そして彼らの手足が飛んでこない端へ食事の道具を寄せ、隅の方で重箱などを用意した。
彼等にとっても三つ子達は愛し子であった。

ナマエは手際よく支度を進める彼等に謝辞を述べ、三つ子達に対し、支度の邪魔をしてはならぬと戒めた。
温情を持つナマエを、下人達は心を尽くして仕えるに相応しい主であると思っており、また、この代の風間家に仕える事が出来、幸せであるとも思っていた。

『うわあ…!』

歓声を上げたのは千瀬。
蓋を外した重箱の中身を覗き込み、その豪華さに瞬時に心を奪われた。
後に続いて覗きに来た千賀と千束も同じ声を上げた。

普段屋敷で食べるような、膳に乗せられて出てくる料理とは趣向が違っている。
色鮮やかで、一つ一つが煌めいて見える。
まるで宝玉を集めた小箱の様で、子供の目にも楽しい品々であった。

『まあ…』

次に声を上げたのはナマエである。
子につられて重箱を覗き、あまりの豪奢ぶりに思わず感心してしまった。

見ただけで手の込んだ料理ばかりであることが窺える。
焼き物、煮染め、練り物。
味を想像し、食欲を刺激されて口中にじわりと唾が広がった。

料理が好きなナマエでも、流石に此処までは出来ないと感じた。
家族に食べさせる料理と、高位の他人に食べさせる料理は違うということか。
今度台所番の者に作り方を教えてもらおうと、彼女は密やかに思った。

銘々皿に取り分けられた料理が各々の手に渡る。
始めに風間。次にナマエ。
その次に千束に与えられ、それから千賀と千瀬に行き渡る。
また、一番形の良いものや、一番美味な部位は必ず風間のもとへ行く。
凡ゆる所に序列が表れており、風間家の子はこうして無意識の内に仕来たりを学ぶのである。

全員が皿を手にした事を確認して、千瀬がいただきますを言う。
久々に家族全員が顔を揃えた楽しい昼餉が始まった。

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