十三

千歳と千賀はそのまま暫く会話に興じた。
それだけの余裕があったからだ。

好きな食べ物や遊び、互いの親の事、住んでいる所についてや、家の周りで見かける動物など、とりとめのない話であったが、二人はそれを楽しいと感じていた。
付き合いが長い割にこうして改めてじっくりと話をする事など今まで無く、新たな発見が多々あった。

知らなかった事を知るのが楽しい。
その思いが互いの理解を更に深めた。

話してみると、どちらも似たような所で笑い、似たような所を疑問に思う。
価値観が近いのだという事もこの時初めて知った。

途中で千賀が小さくくしゃみをした。
じっとして暫く経つので、身体を動かしている最中は感じなかった寒さが戻ってきたのである。

里の者が常駐している訳ではないため、ここに暖を取れるようなものは置いていない。
両手で自分の身体を抱きこみ、千賀は寒さに耐えた。

見かねた千歳が眉を下げる。
上着を着ていれば貸してやりたいが、生憎遊びに出る前に脱いできてしまった。
うーん、と唸って考えた末、この部屋に辿りつく前に何処かで座布団が積まれている部屋があった事を思い出した。
それで囲ってやれば幾らか暖かいのではと考えて、千歳は腰を上げた。

不思議そうにこちらを見上げる千賀に笑いかけ、千歳は向こうの方を指差した。

『俺、座布団がある所知ってるんだ。
下に敷くものでも身体を覆えば少しは寒くないと思うから、』

ちょっと行って取ってくる、と言うと、千賀はすまなそうな顔になった。
その表情に理由も解らず心が疼いた。

千賀のために何かをしてやりたい、という気持ちが強く働き、上手く形容し難い感情が起こる。
千歳はそれを何と呼ぶのか知らなかった。

自分の力で持てるだけの座布団を持ち、少し小走りで千賀のもとに戻る。
少しでも熱を逃さないように物陰の隅に千賀をやって、その身体に座布団を重ねた。

『…どう?』

千歳が試行錯誤を繰り返した末の出来映えを尋ねる。
身動きの取れなくなった千賀は唯一動かせる顔を彼へ向けてにこりと笑って見せた。

『うん、暖かい。…ありがと』

『!』

どきりとした。
見慣れたはずの千賀の笑顔が、何故だか特別なものに見えた。
遅れて、じわじわと嬉しさが滲み出てきた。
自分のした事に対する謝辞と笑顔がとても嬉しかったのだ。



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