十四

気配を感じないとはいえ一応隠れている身ではある。
じっと動かず、息を潜めた。

暖が取れて心地よいのか、千賀がぼんやりし始めた。
たまに会話は交わされたが、口を利かない間に度々千賀は瞼を重そうにした。

少しなら寝ても大丈夫だろうか。
見つかりそうになったら起こせばいいだろう。

千歳は千賀を気遣い、話しかけることを止めた。
そして千賀の呼吸が緩やかになる様を黙って見守った。

静かな空間に千賀の寝息がごく小さく響く。
子供と言えど流石は理性高い鬼の子というべきか、何もすることがないこの状況下において、千歳は特に不満に思うこともなく、不思議と穏やかな気持ちになっていた。
それはもしかしたら、千賀を守ろうという庇護の思いのせいかもしれなかった。

そうしている内に午後になり、昼が短い冬の太陽は傾いてしまった。
明かり取りの小窓から美しい橙の光が舞殿に射し込む。
同時に、辺りの空気も一段下がった。

『…』

無意識に気温の変化を察したのか、千賀が目を覚ました。
少しの間半目のまま呆けて、それから傍に千歳がいないことに気が付いた。

咄嗟に辺りを見回し、姿が見えないと解ると、不安な気持ちで感知の範囲を広げた。

…いた。
彼は社のすぐ外にいるようだった。
千歳の作ってくれた“座布団布団”を崩し、千賀は彼のもとに駆けた。

千歳はこちらに背を向ける形で立っていた。
西日が彼の背に影を作り、大人びた雰囲気を醸していた。

千歳は千賀が来たことに気付いていないようだ。
千賀が彼の名を呼ぼうとした所で、彼は一歩を踏み出した。
何処かへ行こうと言うのだろうか。

『っ、』

謎の危機感に駆られ、千賀は堪らず鬼の脚力を使った。
その勢いのまま千歳の背中に飛び付き、彼の身体を後ろからしっかり抱き締めた。

『!!?』

千歳は驚いた。
誰も見つけにこないままこの様な時刻になり、千賀を起こさずに隠れんぼは終わったのかを調べに行こうとした矢先、突如として背中に強打撃を喰らったのだから、それはもうかなりの驚愕であった。

落ち着いて首を後ろに捻ると、そこには先程まで寝ていたはずの千賀がへばりついていた。
自分の背に顔を埋めてしっかりと抱き付いている。

『千賀…?』

名を呼んでみると、ぎゅう、と自分を抱く手に力が籠った。
しかし顔は上げようとしなかった。

(…何だろう、今の千賀、凄く、)

凄く可愛いと、千歳は思った。

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