十二
『大丈夫よ、鬼役の子はまだ来ないから』
千賀は笑いながら言った。
千歳の優位を取れる事が不思議と心地良かったのだ。
千賀の言葉に千歳は更にむっとした。
人が必死で見つからないようにしているのに、千賀には全くその気がないように見えるからだ。
『何でそんな事が解るの?』
『何でって言われても…解るものは解るの』
気配読みの能力は生まれついてのものであったため、物心つく前より当たり前に使っていた。
いや、使おうと思う事も無しに常に感覚として感じていた。
そのせいで“それ”を他者に上手く説明することが出来ない。
千歳は若干胡散臭さを覚えたが、嘘をつくような気質ではない千賀の言葉と全く警戒をしない有様から信じる事にした。
自分も警戒を解き、千賀を腕から解放すると彼は足を寛げて胡座を掻いた。
千賀は千歳の真正面で正座をした。
『『…』』
沈黙が場を制す。
ばふっ、という、屋根から雪の塊が落ちた音が聞こえた。
『…ねえ、』
口を開いたのは千賀。
遠くを窺う様に外方を向いていた千歳は、ん、と言って千賀の方を見た。
『どうして此処に隠れようと思ったの?
もっと良さそうな所とか有ったと思うんだけど』
しかも自分より先に、という言葉は相手より後れをとっていると認めているような感じがして、何となく飲み込んだ。
千賀にとって特別なこの場所は、平素から里の者に開かれてはいるが、神事を行う場所であり、神聖な場所としての印象が強く、訪れる者は殆ど無い。
そこをわざわざ選んでやってきた千歳の理由が知りたかった。
千歳は小首を傾げて、うーん、と唸った。
『何処に隠れようって思った時に、一番に浮かんだのが此処だったから』
『何で此処が思い浮かんだの?』
追って問う千賀の言葉に千歳は困ってしまった。
特にそう思うような理由はなかったからだ。
何故か真剣な眼差しを向けてくる千賀をからかってやりたい気持ちになり、千歳は口の端を軽く持ち上げた。
『何でって、…思ったものは思ったんだ。
千賀とおんなじだよ』
言われて千賀は目を丸くした。
それはつい先程自分が口にした台詞と酷似している。
千賀のその表情を見て、千歳は少し意地悪そうに笑った。
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