十一

二人は、齢にして十二程だったろうか。
ある冬の季節に千歳が風間の里に遊びに来ていた。

彼は混血の鬼であったが、その半分はあの雪村の血であるという理由で、里への出入りを許されていた。
そして千賀の強い口利きで、風間家へ入る事も許されていた。

千歳は人見知りがなく、また、風間家の客人だという事もあり、薩摩の子鬼達ともすぐに親しくなった。
この日も皆と混じって様々な遊びに興じていた。
雪の深い日だった。

風間家の子達も里に下りて皆と遊ぶ。
当主の子だからという扱いはなく、上も下もない。
雪玉当てをすれば容赦なく玉が飛んできたし、追い駆けっこをすれば遠慮なく追い回された。

そんな中、隠れんぼをしよう、と誰かが言い出した。
皆が瞬時に色めき立った。
望むところだ、と別の誰かが言った。

雪の日の隠れんぼは難易度が高い。
ましてや人より身体能力の優れる鬼の隠れんぼである。
範囲は里内全域に及び、木の上や屋根の上、可能ならば何処にだって隠れられる。

鬼になった子が顔を覆って数を数え出した。
蜘蛛の子を散らすようにして、皆が四方へ散っていく。

千賀は社を目指していた。
父と母が婚姻を結んだという彼の場所は千賀の気に入りの場所だ。
不思議な気に満ちており、いるだけで何か神聖なものが身の内に入ってくるような感じが何とも言えず心地よい。

(あそこなら、鬼が探しに来ても隠れながら移動が出来るわ)

千賀は母に似て気配に鋭い。
その力を以て、隠れんぼでは無類の強さを誇っていた。

社が見えてきた時、彼女は気配が一つある事に気がついた。

(あっ、)

気配の主が誰かに気付いて、鼓動が僅かに早まる。
あれは、千歳だ。

まただ、と彼女は思った。
千賀も足は決して遅くはないはずだが、彼は自分より先に社に辿り着いていたらしい。
些細な事に意識をする。
彼は時々、自分より優位に立つ時があり、その度に千賀は千歳を特別な気持ちで見ていた。

里の男童達とは違って見える。
たくさんの子鬼に混じっていても、千賀はすぐに千歳を見つける事が出来るようになっていた。

社に着いて気配のもとを探る。
千歳は舞殿と呼ばれる間の物陰に隠れていた。

『ちと、』

せ、が言えなかった。
声を掛けたのと視線が交わったのが同時で、気づけば千賀は千歳に腕を取られて強い力で引かれていた。

『…しっ!……見つかる』

千歳の腕の中で温もりに包まれながら、耳元で囁かれる。
千賀は耳まで真っ赤になったが、何故そうなるのか解らなかった。

暫し息を殺して、漸く少し落ち着く。
改めて周りを探るが、鬼の子の気配はない。
大丈夫なのにな、と思う自分と、息を詰めて辺りを窺う千歳との落差が妙に面白い。

堪らず千賀が笑い出すと、千歳はむっとした顔で千賀を睨んだ。
この頃の彼はまだ、千賀が特別な力を持っている事を知らなかったからである。

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