合縁奇縁というか、はたまた必然だったのか。
その日から両家の交流が始まり、以後現在に至るまで必ず年に一度はどちらかの家がどちらかを訪ねていた。

風間と土方は相変わらず馬が合わない様であったが、それで構わないとナマエも千鶴も思っていた。
仲が悪い事が、仲が良い事の証明だった。

両家の交流は、年を重ねる毎に様子が変化した。
近年では両家というよりは、千歳と千賀がどちらかを訪ねていたというのが正しい。

千歳、と名を呼べば、ん、という返事がある。
そんな当たり前の事が愛しくて、千賀は恍惚の溜め息を吐いた。

きっかけは何だったのだろう。
千歳が千賀を、風間家の三つ子の一人としてではなく、一人の異性として見るようになったのは。
また、千賀が千歳を、たくさんの男鬼のうちの一人としてではなく、一人の異性として見るようになったのは。

始めは名前のない感情の萌芽だったろう。
それが共に過ごす時間を重ねる度に、無意識の水面下で次第に膨れ、相手が特別なのだと気付き、幾らか悶々とした思いを抱え、そして、まるで実が弾けるように“恋しい”という名を付けて胸を一杯に満たしたのだ。

相手を意識したきっかけは互いに違っても、想いが通じ合った時は同じである。
初めて心を通わせた日の事を、二人は忘れていない。

『雪、凄いね』

唐突に千賀が言う。
千歳は小さく笑って答える。

『日本では一番北だから』

それに対し千賀は曖昧に、うん、と返して、

『これだけの雪を見ると、どうしても…思い出す』

と付け加えた。
末尾の声音が恥じらいを含んでいる。
気付いた千歳はをわざと千賀の顔を覗き込んだ。
千賀は慌てて両手で顔を覆い隠した。

『な・に・を、思い出すの?』

何、という箇所を強調すれば、隠しきれていない千賀の頬が次第に赤くなる。
勿論千歳は答えを解ってやっている。

『……解ってるでしょう?』

顔を赤くしつつ指の隙間からこちらを睨み、恨めしそうに言うその様子は千歳にはただ可愛いだけにしか映らない。
そして、可愛い子には意地悪をしたくなる。
にやにやとした笑みを浮かべて、解らないな、と答えると、うぅ、と千賀は小さく呻いた。

『…千歳の意地悪っ、鬼っ』

彼女の可愛らしさが最早彼には限界だった。
千歳は声を上げて笑った。

『確かに半分は鬼だけどね』

冗談で言うと千賀が口を尖らせた。
あまりやりすぎると彼女の不興を買う。
ごめんね、と前置きしてから、

『俺もだよ。今の季節は四六時中思い出す』

と返した。

“何を”が指すのは、言うまでもなく、二人が互いを好いていると知った日であった。

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