浅からぬ因縁を以てかつて敵対していた者同士、久々の対面に意識しない訳が無い。
風間も土方も、真っ先に互いを見たのだ。

『…父様達は互いを認めてはいるけど、あんまり仲が良いとは言えないって、母様が』

千賀の言葉に、千歳はかつて母から聞いた互いの父の事を表した言葉を思い出した。

『刀を振るう者は少し一筋縄ではいかない所があるんだって、母様笑いながら言ってたな』

刀を握らない生活を送る様になっても、刀を握っていた時の心が無くなる訳では無い。
猛る心は息を潜めているだけで、きっかけさえあればいつでも息を吹き返すのだという。
それは良く言えば矜持で、悪く言えば弊害だ。

刀を持たない時代に生まれた彼等は、何故父達が母達の様に親しくしようとしないのかが理解出来ない。
それを母達に言うと、彼女等は決まって柔らかく笑むだけだ。
父達を悪く言う事もなければ、千歳達を諭す事もしない。
ただ、少し遠くを映す様な目をして、そうね、としか言わない。

千歳達はいつも首を捻っていた。

『それで、父様達は互いを見てどうしたの?』

千歳が続きを促す。
千賀は脳裏に当時の記憶を描いた。

『うん、それで、父上達が互いを見て動きを止めたの。
土方様は敷居の向こう側で仁王立ちだし、父上は私たちを抱いたまま身動ぎ一つしない。
でも、母上も千鶴様も少し笑ってて、さもありなんって様子で、ごく普通にしてたのよ』

幼子ながら、父と母とのその温度差が酷く心に残っている。
年端もゆかぬ身でそれ程までに鮮やかに記憶している事は大変に珍しく、もしかしたら後々の自分が脚色した偽りの記憶では無かろうかとも思った事がある。

ある日真偽を確かめるべく、千賀は母に両家初顔合わせの時の事を話してみた。
するとナマエは目を丸くして、よくそこまで細かく覚えているわね、と言ったのだった。
どうやら偽りではないようだった。

千賀は記憶の続くままに言葉を紡いだ。

『母上がどうぞお入り下さいって、土方様達を中に促して、千鶴様が土方様の背中を押したの。
それでも父上達は目を見たままだった』

用意された座布団の所まで進んでも、彼等は一度も視線を外さなかった。
猫の世界では先に目を逸らした方が負けというが、風間と土方は正にその状態だったのだろう。

『ずっと目を見っ放しって、辛くないのかな?
俺だったらちょっと、気まずく感じると思うけど』

千歳の意見に千賀も同意を示した。
目の力というものは圧が強く、普通の人間ならば圧から逃げるために目を逸らすはずである。

『父上も土方様も、負けず嫌いなんじゃないかしら』

千賀がそういうと千歳は思わずといった様子で吹き出した。
そう思える所があるからである。

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