始めこそ文句を言ったり、かと思えば気遣う言葉を頻(しき)りに口にしたりしていた千賀だったが、千歳が笑んだまま一向に態度を変えないのを見て、やがて大人しくなった。

『…』

甘える様に、彼の身体へもう少し身を寄せてみる。
気付いた千歳は応えて、千賀の腰辺りを支える指先に細かく二三度力を込めた。

『!?』

びくりと身体を跳ねさせた千賀に、千歳は声を上げて笑った。
千賀はくすぐられたのだ。

『っ、もう!』

と言って千歳の肩をぽかぽかと叩く。

『あはは!痛いよ、千賀』

本気で叩いている訳では無いので勿論痛みなどありはしない。
他愛ない戯れ合いですら楽しくて仕方が無い。
やがて千賀も釣られて笑い出し、青空の下に幸せな笑い声が響いた。



少し緊張しながらもう一度千賀が身体を預けると、今度は何もされなかった。
ゆっくりとした揺れに身を委ねながら、愛しい千歳の匂いを肺に満たして息を吐く。
目を閉じて視覚以外の感覚に頼ると、とても気持ちが良くなってきた。

『…ねえ、』

『うん?』

心地良い揺れに遠い昔の記憶が呼び起こされて、千賀はそれを口にしてみたくなった。
千歳はきっと覚えていないだろう。

千賀が好ましく感じる高さの千歳の声音。
その中には柔らかさがあり、彼の人柄を良く表している。

良い声だな、と思うと自然と笑みが零れた。
何でか笑われた千歳は、少し拗ねた様に、何だよ?と聞いてきた。

『私たちが初めて会った時の事を覚えている?』

ごめんね、と前置きして千賀は問うた。

そう、それはまだどちらも幼子や赤子の頃の事。
案の定千歳はうーんと唸った後、覚えてないなあ、と言った。

『だって、千賀も俺もまだ赤ん坊だっただろう。
千賀は覚えてるの?』

まさかとは思うが、そんな事を聞いてくるくらいなので、千賀は覚えているのだろうと千歳は考えた。
その後返された千賀の肯定の返事に、千歳はやや瞠目した。

『私は父上達と待っていて、そこに知らない人の気配を連れた母上の気配が近付いて来て』

千歳にはさっぱり解らないが、千賀には生物の気配というものが解るらしい。
しかもそれは、彼女に生まれつき備わった才能で、昔よく共に隠れんぼなどをした時、鬼でも追われる方でも千賀は無敵の強さを誇っていた。

『…襖が開いた瞬間に、土方様と父上の視線がぶつかったのよ』

間の記憶は所々抜け落ちているにも拘らず、何故かその時の事ははっきり覚えている。
当時を思い出してくすくすと笑う千賀に、へえ、と言って千歳が答えた。

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