十一
京に入り、目的の店へ真っ直ぐ向かう。
相変わらずのたくさんの人波。
少し頭痛を覚えながら馴染みの甘味屋に辿り着くと、女主人が笑顔で迎えてくれた。
『あらナマエちゃん!
ようお越しやす、久しぶりやね!』
『ご無沙汰しています』
明るい笑顔を向けられて、釣られてナマエも微笑む。
店の人間に疾風の引き手を預け、ナマエは店内に入った。
『ちょっと、また美人さんになったんと違う?
若いってええねぇ』
『恐縮です』
堅いところは相変わらずやわ、と女主人はけらけら笑った。
社交辞令のための決まり文句と知りつつも、褒められ慣れていないナマエは照れくさくて仕方がなかった。
みたらし団子を三つ、と注文すると、おまけだと言って二つ多く包んでくれた。
支払いをして表に出る。
預けてあった引き手を受け取り、頭を下げた。
『そうだ、ナマエちゃんに教えといてあげるわ。
ナマエちゃん可愛いから、目つけられたらあかんしね』
それまでにこやかにしていた女主人が急に声を潜めた。
ナマエは何事かと耳を傾ける。
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