歩き慣れた山道を黙々と下って行く。
山の中は自分が立てる音以外は無音に近く、ナマエはこの空間が何とも言えず好きだった。

途中水が湧いている沢で一休みをし、ふもとの里に辿り着いた時、日は高く真上にきていた。



『やあやあ、よくぞ参られました桜野殿!』

庄屋の家を訪れると諸手をあげて歓迎された。
中に上がって寛ぐ様促されるが、ナマエは父の遣いがあるからと断った。

ならばこれを受け取ってくれと、金子と大量の野菜を貰ってしまった。
こんなに貰えないと断ろうとすると、庄屋は日頃の感謝をさせて欲しい、里一同の気持ちだと思って受け取ってくれと言って、半ば無理やりナマエに押しつけた。

どうにも断り切れなくて、ナマエは渋々頂戴することにした。

荷運び用の疾風の馬具に、里の人間が野菜をしっかりくくり付ける。
どう頑張っても全部は乗り切らず、それなら仕方ないですねと、漸くここで庄屋が折れた。

桜野殿の娘さんがきていると聞き付けた里の人間がわらわらと集まって来、ナマエが京へ向かうと知るや一斉に見送りを始めてしまった。

どこぞの戦場へ出陣する田舎の武将みたいで可笑しく感じられ、街道を歩きながらナマエはしばらく笑いが収まらなかった。

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