neta | ナノ
ショートショートや140字SS、そのほか中途半端な話をボコボコ投げるとこ、ここから膨らませて長いお話にする可能性も微レ存。
ページの性質上、名前変換機能がございません。ご了承ください。

呪いの世界


(トオルとリオの話)

「……何してんの」
 みっともないくらい震えた声で、オレはリオの腕を掴んだ。細っこい右腕はオレの知っているリオのそれによく似ていて、けれども手のひらに握られているものと、それに連なる行為によって感慨にふけることは出来ない。
 リオはこくんと首を傾げた。まるでおかしいのはオレのほうだとでも言いたげに、その目はひどく純粋だ。
「もらったの。そこのお店で」
「『もらった』って……おまえ、それ、『もらった』じゃなくて『盗んだ』じゃんか」
「家ではそれが普通だったんだよ」
 曇りのないままリオは続ける。眩暈がした。オレがツルバミの家で過ごしている間、彼女に襲いかかっていた絶望、悪夢、狂気の気配を辿ることがオレには出来ない。生半な思いで触れていいものではないし、きっとオレが思うより何倍もこいつは――
「変なお兄ちゃん」
 リオは再び首を傾げる。その仕草がオレの知る彼女の姿にそっくりで、ひどく泣きたい気持ちになった。

嘆くということ


(サクマの話)

 きっとそれこそ「恋」だった。
 その手に触れて、打ち震える胸のうちを感じた。微笑みに体が熱を持って、名を呼ばれるたびに嬉しくなって、そばにいられることが誇らしくて、そんな生娘すら敬遠しそうな想いを、この胸に抱いてわたしは笑った。幸せだと、何よりも大切にしたいと、この人との未来を夢見ては眠る日々を過ごした。
 溺れていたのだと思う。驕っていたのだと思う。だからこそわたしは堕ちた。
 地の底まで、果てまで堕ちて、指針と、光と、意志をなくした。息の仕方を忘れたようで、暗闇で彷徨うような毎日を送った。
 わたしは愚か者なのだ。初めて恐怖というものを知った。初めて心の砕ける音を聞いた。初めて、この地に膝をついた。
 わたしは愚か者なのだ。眩暈のしそうな明日から逃げることすら許されない。
 わたしは、愚か者なのだ。裏切られるまでわからない。
 わたしは、ずっと、愚かなのだ。

バトルしようぜ


シンタロウとミイの話、直接的な単語が入っているのでたたみます
追記

あさのひざしに蝕まれてゆく


(ユズルの話)

 朝がひどく怖かった。おのれが今日も生きている実感とともに訪れる恐怖心は、見たことも会ったこともない兄が脳裏によぎるせいだ。
 幼少期より様々な才覚を見せ周囲の期待を集めた兄は、今の私と同じ16のときに“連れて行かれた”。どこにいるのか? どうやって“連れて行かれた”のか? 死んでいるのか? 生きているのか? そんなもの誰にもわからない。誰にも知る由もない。ただここに、私のなかに深く深く恐れの心を根差したのみだ。
 私は生きなければいけない。生きてほしいという両親の、あの人の望みを最期の最期まで全うしなきゃいけない。そのためなら、きっと、泥水をすする覚悟だってある。覚悟があっても恐怖は消えない。
 私は今日も朝が怖い。生きた心地のしない日々を、生きていかねばならないからだ。

白へと彩を差しゆく日


(アユの話)

 ――べちっ。けたたましく鳴り響いていた目覚まし時計は、可愛らしい打撃音によって口を閉ざした。
 時刻はまだ6時をまわったところで、宿の外にも人の気配は少なめである。ハウオリの市場はざわざわと賑わっているけれど、お寝坊さんやのんびり屋さんはまだまだ夢の世界に浸っている時間帯だ。
 そんななか、アユは時刻を見つめてはニンマリとした笑みを浮かべ、跳ねるようにベッドを飛び出す。勢い良くカーテンを開け、まっさらな日光を全身に受けて目を細めた。にゃあにゃあと鳴くキャモメの群れに挨拶をして、大きく伸びをしながらきらめく景色を双眸に映し、まばゆい笑みで表情を満たす。
 わくわくでたまらない、今日は一体どんなことがあるのだろう、どんな人やポケモンに出会って、どんな出来事が起こるのか。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、早速出かける準備が始められるのだ。
 何を食べよう、どこへ行こう、そんな他愛ない悩みごとのひとつですら、アユの世界を輝かせる。

白い空


(ユズルの話)

 カンナギタウンは雪が降る。ちらほら、はらはら、空から舞い降りる白い粒は、見慣れたものであるがゆえにさしたる感動など与えてはくれなかったけれど、それでも記憶には確かに残っている。
 アローラ地方はウラウラじまにそびえ立つ、霊峰ラナキラマウンテン。荘厳な空気はテンガンざんを彷彿とさせ、加えてポケモンリーグの設立されたそこは私のような一般人が気安く立ち寄れる場所ではないのだけれど、なんとなく足を伸ばしてしまったのはそこに故郷の気配を見たからだ。良い思い出はあまりない。でも、悪い思い出ばかりじゃない。遠く離れたシンオウ地方、雪に包まれたあの世界は、この先なにがあったとて私の「故郷」に変わりはないのだ。
「……ホームシック、かなぁ」
 ブニャットは何も答えない。ただひとつ言えるとしたら、その沈黙こそが、彼女の答えであるのだと思う。

白になれない


チクサの話、ちょっと閲覧注意
追記

Day D Ream


(よそのこお借り)

ヂナコは空を歩いていた。否、本当に空を歩いているわけではない。これはいわゆる空想で、幻覚で、はたまた夢と呼ばれる類のものでしかないはずだ。ヂナコはいつも夢を見る。風呂上がりのちょっとしたひと時にだけ、逆上せた体を冷たいベッドに横たえるたびに夢を見る。そこでしか出会えない人がいるのだ。会いたくて会いたいわけではない。会えなくて淋しいわけでもない。それでもただ、どうしてだろう、会えると安らぐ自分がいる。今日もあの子は泣いている。今日もあの子は笑っている。目まぐるしい日々の中にある確かな不変の安らぎを、ヂナコはたかだか己の夢のなかに見出してしまっているのだ。ヂナコは今日も空を歩く。冷えた体でくしゃみをこぼすその瞬間まで、仮初の安寧に身を浸すのだ。

いくじなし


(イヌカイ→ナナコ)

「作詞家って、すごいお仕事ですよね」天井へ届く本棚へ指を這わしながら、ナナコは感嘆のため息をもらした。文学の街に生まれ、物心つく前から「物語」というものに触れて育ったイヌカイは、見た目から受ける印象にそぐわず大変な読書家である。本を読むこと、物語を書くこと、それらが高じて作詞家という道に進み、今ではそれなりに名が知れるほどとなった。書斎を忙しなく見渡すナナコの背中を見ながら、イヌカイは事も無げに言う。「いつかおまえをモデルにした歌も書いてやるよ」ナナコは小さく肩を揺らした。「やだなあ、どうしよう。わたし歌は得意じゃないから、あんまりうまく歌えないかも」――上手い下手なんて関係ない。ただおまえが声を乗せるだけで、それは最上の歌になる――伝えたかった言葉を殺して、イヌカイは喉の奥で笑った。

10年経ってもそばにいた


タクヤ×トオル
追記

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