6 《prince side》


 朝一番に台本が配布され、まずその作成期間の短さに素直に驚いた。それから一読してその完成度の高さにさらに驚いた。[シンデレラ]を演じることが決定したのが一昨日、大まかな配役が決まったのが昨日だ。[執事]とか[シンデレラ父]とか色々配役が増えてはいるが、話の展開は山あり谷あり、劇としても申し分ない。ト書きまで入ってやがる。

(北島……)

 張り切りすぎじゃないか……。
 読み進めて、少し気になることがあった。それは[王子]の、俺のセリフが長いということ。主役だから仕方ないとはいえ、これ、全部覚えるのか?



 昼の弁当を食べながらも俺は台本に目を通す。もう4、5回は読み返している。読み返すほどに話がよく組み立てられているのがよくわかる。童話って、話の単純さの方にウェイトが置いてあって、登場人物の心情とか行動の動機に乏しい印象がある。年をとってから童話を読むと、いわゆる“ツッコミどころ”が多くて嫌になる。その点を北島の台本は丁寧に滑らかに繋いできている。若干くどい部分があるといえば、そうなのだけど。

 ふぅーと長い息をつき、椅子の背にもたれた。視点は遠くに結ばれ、教室全体がぼやける。


『大学なんて、どこ行ったって一緒よ』

 耳の奥にこびりついたように聞こえる。




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