05 《Playwright side》


 所詮[シンデレラ]は思い描いていたのは頭の中だけの物語。叶うはずも、訪れるはずもない出会いなのだと心の中で諦めていたからこそ描けた夢の話。突然目の前に現れた夢は、現実とのギャップを[シンデレラ]に見せつけた。そして、苦しめた。好きにならなければ良かった。舞踏会に出たいなんて思わなければ良かった。彼女の思いが純粋で真っ直ぐであるほど、[シンデレラ]は己を嘆き悲しんだに違いない。

 そんな状況の[シンデレラ]に、どうして[王子]との結婚を決断できようか。[シンデレラ]の味方なんて、いなかったのではなかったか。


 僕の思考がここで止まる。しまった、崩れそうだ。


 助けてくれとばかりに、本棚に手を伸ばした。「グリム童話」を手にとると、最初に「ヘンゼルとグレーテル」が目に留まった。開いて2、3分、目を通す。

(そういえば、ヘンゼルたちも貧乏だったんだな。母親は血がつながってないし、意地悪で……)

 そこに登場していたのが、心優しい木こりの父親だった。彼は子供達を守りたいと思うものの貧しさと妻の厳しさに負けてヘンゼルとグレーテルを森に置いて行く。最後には母親は死に、お菓子の家から生還した子供二人と仲良く暮らせることになる。


(これだ……)


 父親。気は弱いが、優しくて子供思いの父親。これだ。
 [シンデレラ]にもし、血の繋がりのある父親がいたのだとしたら。影ながら彼女を支える存在がいれば、劇は成り立つ。


(少しくらい配役は増えても構わないよな……)

 文化祭クラス委員には、あとで詫びをいれておこう。

 僕は開いていた「グリム童話」を閉じ、お気に入りのシャーペンを執った。いつの間にか夜も更け、夜風がひんやりとしてきたが、考え込んで火照った頭に丁度よかった。


筆は最後まで止まることなく動き続けた。




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